インドで発生したCOVID-19関連ムーコル症のアウトブレイク時におけるムーコル目(Mucorales)の存在を標的とした病院環境の評価:多施設共同研究★★
Evaluation of hospital environment for presence of Mucorales during COVID-19-associated mucormycosis outbreak in India - a multi-centre study M. Biswal*, P. Gupta, R. Kanaujia, K. Kaur, H. Kaur, A. Vyas, V. Hallur, B. Behera, P. Padaki, J. Savio, S. Nagaraj, S.K. Chunchanur, J.V. Shwetha, R. Ambica, N. Nagdeo, R. Khuraijam, N. Priyolakshmi, K. Patel, D. Thamke, L. Dash, D. Jadhav, R. Bharmal, S. Bhattacharya, S.M. Rudramurthy, A. Chakrabarti *Postgraduate Institute of Medical Education and Research, India Journal of Hospital Infection (2022) 122, 173-179
背景
インドにおいて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連ムーコル症(CAM)の例数のこれまでにない増加が報告されている。このアウトブレイクについて、多数の仮説が提示されている。筆者らは最近、コントロール不良の糖尿病および不適切なステロイド療法が、このアウトブレイクの重要なリスク因子であると報告した。しかし、病院環境のムーコル目による汚染については検討されなかった。
目的
インド全土にわたる多施設共同研究を実施し、アウトブレイク時における病院環境のムーコル目による汚染の可能性について評価すること。
方法
インドの 4 地域から、ムーコル症症例の発生率が高い病院から低い病院までを代表する 11 施設を本研究の対象とした。2021 年 5 月 19 日から 2021 年 8 月 25 日にかけて、患者が使用する様々な機器、ならびに周囲空気から、サンプルを採取した。
結果
サンプルを採取した病院機器のいずれについても、ムーコル目による汚染は認められなかった。しかし、空調排気口の 11.1%、および患者の使用済みマスクの 1.7%でムーコル目が分離された。その他の真菌が、病院機器および表面の 18%、ならびに使用済みマスクの 8.1%で分離された。ムーコル目は、屋内空気サンプルの 21.7%、および屋外空気の 53.8% で分離された。空気中におけるムーコル目の芽胞数は、北部および南部地域の病院では、西部および東部地域と比べて有意に多かった(P < 0.0001)。環境から分離されたムーコル目の中で最も多かった菌種は、リゾプス属(Rhizopus spp.)であった。
結論
空調排気口および病院の空気において、ムーコル目による汚染が認められた。これらの箇所に ムーコル目が存在することから、病院環境の定期的なサーベイランスおよび改善が必要とされる。なぜなら、汚染は医療関連ムーコル症のアウトブレイクに寄与する可能性があり、特に免疫抑制状態の患者においてその可能性があるからである。
監訳者コメント:
ムーコル症の発生は、新型コロナウイルス感染症の合併症として、コントロール不良の糖尿病やステロイド治療により重度の細胞性免疫低下が原因となり、環境から高頻度に分離されるムーコル目真菌により発生していることがインドを中心に報告されている。本論文では、ムーコル目真菌は病院の診療機器からではなく、空気中および空調吹き出し口から検出されており、さらに継続的に使用されている患者マスクからも検出されていることが報告されている。確実な診断方法は病理組織検査と真菌学的検査であり、治療はアンホテリシン B のリポ製剤が第一選択となり、予後不良の感染症である。
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