抗菌薬使用と腸内細菌目細菌およびエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)における抗菌薬耐性:時系列分析
Antimicrobial use and antimicrobial resistance in Enterobacterales and Enterococcus faecium: a time series analysis
F.O’Riordan*, F. Shiely, S. Byrne, D. O’Brien, A. Ronayne, A. Fleming
*Mercy University Hospital, Ireland
Journal of Hospital Infection (2022) 120, 57-64
背景
アイルランドおよび欧州の抗菌薬耐性サーベイランスデータから、腸内細菌目細菌における抗菌薬耐性およびエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)におけるバンコマイシン耐性が増加していることが示されている。アイルランドの病院において、抗菌薬使用量も増加しつつある。
方法
2017 年 1 月から2020 年 12 月にわたり後向き時系列分析を実施して、選択した抗菌薬の抗菌薬使用量と腸内細菌目細菌の抗菌薬耐性および E. faecium のバンコマイシン耐性について、その傾向、ならびに抗菌薬使用量と抗菌薬耐性の間における関係について評価を試みた。
結果
抗菌薬使用量の増加が、セフトリアキソン(P = 0.0006)、ピペラシリン・タゾバクタム(P = 0.03)およびメロペネム(P = 0.054)で認められた一方、シプロフロキサシンおよびゲンタマイシンの使用は減少傾向にあった。大腸菌(Escherichia coli)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、およびその他の腸内細菌目細菌における抗菌薬耐性率は、おおむね一定であるか減少しており、その他の腸内細菌目細菌におけるエルタペネム耐性が 2017 年の 0.58%から 2020 年には 5.19%に増加していること(P = 0.003)が主な懸念事項であった。バンコマイシン耐性 E. faecium の割合には有意な変化は認められなかった(2017 年には64%、2020 年には 53%、P = 0.1)。時系列分析から、ピペラシリン・タゾバクタム使用と大腸菌におけるセフトリアキソン耐性率の減少との間に相関が認められた。
結論
筆者らのデータから、病院の抗菌薬適正使用支援プログラムにより基本的に制御ができているが、主要な院内病原体において抗菌薬耐性は減少していないことが示唆される。COVID-19 パンデミック後における抗菌薬使用量の増加は、これまでのところ抗菌薬耐性率には影響を及ぼしていないようである。
監訳者コメント:
抗菌薬の使用量と薬剤耐性菌の増減の相関に関しては様々な報告があるが、同時に様々な要素も変化しているので、なかなか一対一での相関関係を評価することは難しい。本研究からも新しくかつ決定的な知見は得られないようである。
※腸内細菌目細菌の分類名については以下総説を参照のこと:
https://www.jscm.org/journal/full/03104/031040229.pdf
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