リハビリテーションクリニックにおける SARS-CoV-2 の爆発的院内アウトブレイク:アウトブレイク再構築におけるゲノミクスの限界★

2021.11.30

Explosive nosocomial outbreak of SARS-CoV-2 in a rehabilitation clinic: the limits of genomics for outbreak reconstruction

M. Abbas*, T. Robalo Nunes, A. Cori, S. Cordey, F. Laubscher, S. Baggio, T. Jombart, A. Iten, L. Vieux, D. Teixeira, M. Perez, D. Pittet, E. Frangos, C.E. Graf, W. Zingg, S. Harbarth
*Geneva University Hospitals, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2021) 117, 124-134


背景

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス‐2(SARS-CoV-2)の院内アウトブレイクは、通常の感染制御策を実施しても高頻度でみられる。アウトブレイク調査を最新のゲノミクスおよび統計学の技術を用いて、考え得る感染伝播の連鎖の再構築、ならびに SARS-CoV-2 伝播における医療従事者の役割の評価を行った。

 

方法

大学付属リハビリテーションクリニックにおける院内 SARS-CoV-2 アウトブレイクの調査を、患者と医療従事者を対象に、広範囲の病原体をカバーする全ゲノムシークエンシング(WGS)を用いて実施した。疫学データから時変再生産数(Rt)を推定し、最尤系統樹を用いて病原体の遺伝的多様性を評価した。ゲノミクスおよび疫学のデータをベイズ法の枠組みに統合して伝播の方向性をモデル化し、また症例対照研究を実施して患者における院内 SARS-CoV-2 獲得のリスク因子を検討した。

 

結果

このアウトブレイクは、2020年 3 月 14 日から 2020 年 4 月 12 日まで持続し、患者 37 例(31 例で WGS 実施)および従業員 39 名(31 名で WGS 実施)が罹患し、このうち 37 名は医療従事者であった。Rt ピーク値は、2.2 から 3.6 の間と推定された。系統樹から、遺伝的多様性は極めて限られていることが示され、分離株 62 株中 60 株(96.7%)が同一ゲノムから成る 1 つの大きなクラスターを形成していた。結果として再構築された伝播イベントには不確実性があったが、本解析から、医療従事者(うち 1 名が初発症例)が交差伝播において重要な役割を果たしていたことが示唆され、医療従事者の症例数(46.7%)から予想されるよりも、医療従事者に起因する感染症の割合(70.7%)は有意に高かった(P <2.2e-16)。医療従事者からの過剰な伝播は、患者(79.0%、95%信頼区間[CI]78.5 ~ 79.5%)およびフレイル患者(Clinical Frailty Scale スコア > 5、82.3%、95%CI 81.8 ~ 83.4%)の感染を考慮するとより高かった。さらに、フレイル患者では、院内COVID-19 のリスクが他の患者よりリスクが高い(補正オッズ比6.94、95%CI 2.13 ~ 22.57)ことが認められた。

 

解釈

本アウトブレイク報告は、医療環境の SARS-CoV-2 伝播の動態において医療従事者が重要な役割を果たすことを浮き彫りにしている。病原体のゲノムにおける遺伝的多様性が限られていたことから、個々の伝播イベントの再構築が妨げられ、結果として「誰が誰に感染させたか」について大きな不確実性が残った。しかし、本研究は、そうした不確実性にもかかわらず、有意な伝播パターンが観察可能であることを示している。

 

サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

スイスのリハビリテーションクリニックでの報告。COVID-19 流行期での院内アウトブレイクでは複数の株が伝播していることがあり、本研究のように制限はあるもののゲノム解析により感染経路をある程度推定することが可能である。

 

 

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