スイスの 2 つの地理的地域の長期ケア施設の入居者における医療関連感染症および抗菌薬使用
Healthcare-associated infections and antibiotic use in long-term care residents from two geographical regions in Switzerland D. Héquet*, S. Kessler, G. Rettenmund, E. Lemmenmeier, L. QallaWidmer, C. Gardiol, T. Münzer, M. Schlegel, C. Petignat, P. Kohler *Public Health Service, Switzerland Journal of Hospital Infection (2021) 117, 172-178
背景
スイスの長期ケア施設(LTCF)における医療関連感染症(HAI)と抗菌薬使用の負担は、現時点では明らかにされていない。本稿では、スイスの LTCF 居住者における HAI 有病率および抗菌薬使用について評価した。
方法
「長期ケア施設における医療関連感染症」(HALT)プロトコールに基づき、東スイスと西スイスの LTCF において 2019 年8 月から 10 月にかけて点有病率調査を実施した。居住者の特性(年齢、性別、創傷、認知症、留置カテーテル)および施設の特性(特殊因子、地理的地域)について評価した。LTCF 居住者を HAI およびその時点での抗菌薬治療についてスクリーニングした。HAI と関連する個人的要因と施設的要因を評価した。
結果
LTCF 16 施設(地理的地域あたり 8 施設)の居住者 1,185 例(計)を、HAI と抗菌薬治療についてスクリーニングした。年齢中央値は 87 歳(四分位範囲 79 歳 ~ 91 歳)で、女性が 71%を占めた。HAI 有病率は 4.2%(4.3%[西]対 4.2%[東]、P = 0.93)で、粘膜皮膚感染症(36%)、気道感染症(30%)の頻度がもっとも高かった。HAI 発症の独立リスク因子は、慢性的創傷の存在(オッズ比[OR]2.4、95%信頼区間(CI)1.1 ~ 5.0、P = 0.02)、寝たきり状態(OR 1.8、95%CI 1.0 ~ 3.3、P = 0.04)であった。調査当日、居住者の 2.9%に抗菌薬が投与された(3.9%[西]対 1.8%[東]、P=0.05)。もっともよく処方された抗菌薬は、アモキシシリン‐クラブラン酸とキノロン系であった。
結論
スイスの LTCF における HAI 有病率は、他の欧州諸国の有病率と同等であるが、抗菌薬使用量はより少ない。今回の設定での HAI および抗菌薬使用量の負担に関して理解を深めるために、広範な規模でのさらなる点有病率調査を推奨する。
監訳者コメント:
多くの医療関連感染の制圧にはサーベイランスの実施が重要な役割を担う。実態把握を行うとともに、継続的にモニタリングして改善計画を練ることが医療関連感染の減少とコントロールに繋がる。日米においては多剤耐性菌の温床として長期ケア施設の関与が指摘されているところであり、保険診療においても、こうした施設における感染サーベイランスや抗菌薬の監視体制は医療圏における耐性菌制御面で重要な意味をもつ。
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