接触予防策への高い遵守率は流行状況における多剤耐性病原体の院内伝播低減につながるか?

2021.10.31

Does high adherence to contact precautions lead to low in-hospital transmission of multi-drug-resistant microorganisms in the endemic setting?

A.C. Büchler*, M. Dangel, R. Frei, S. Jäger, J.A. Roth, H.M.B. Seth-Smith, A. Egli, A.F. Widmer
*University Hospital Basel, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2021) 116, 53-59


背景

流行状況において、接触予防策が多剤耐性病原体(MDRO)の伝播低減に及ぼす影響について、これまで発表された研究では矛盾する結果が示されている。定義のあいまいさと相まって、遵守率が低いことで、このような結果の差が部分的に説明される。

 

目的

接触予防策への遵守率を前向きにモニタリングし、その結果を MDRO の院内伝播との関連を検討することを目的とした。

 

方法

2016 年 1 月から 2018 年 3 月の間に、接触予防策下にあった全患者を対象に、接触予防策への遵守について継続的なモニタリングを、標準化したチェックリストを用いて、接触予防策開始後 0、3 および 7 日目の定期的な施設訪問により行った。プロトコールには、接触予防策下にあることのドアへの表示、ならびに病室への入室時におけるガウンおよび手袋の装着など、ルーチンでチェックする10 種類の介入を含めた。接触予防策を要する患者は、MDRO(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA]、大腸菌[Escherichia coli]以外の基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ[ESBL]産生腸内細菌目細菌、バンコマイシン耐性腸球菌[VRE]、およびカルバペネム耐性グラム陰性病原体[CRGN])の保菌または感染を認める患者、ならびに呼吸器ウイルス、ノロウイルス、疥癬、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)の超毒性株への感染を認める患者と定義した。

 

結果

全体で、患者 812 例に対する訪問 1,378 件による接触予防策の記録 13,756 件のデータを分析した。遵守率には、各介入の間で 93%から 100%までのばらつきがあったが、例外として「汚染物質に対して空間をあけること」については遵守率が5.3 ~ 6.1%であった。研究期間中における院内伝播の発生率は、MRSA、VRE、E.coli 以外の ESBL 産生腸内細菌目細菌、および CRGN について極めて低く、1,000 患者日あたり症例 0.00 ~ 0.064 例であった。

 

結論

高い遵守率と相まって接触予防策の継続的なモニタリングが、極めて低い院内伝播率と関連していた。これらの結果から、遵守率の定期的なモニタリングが実施されていれば、接触予防策の効果が高いことが示されている。

 

サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

接触予防策の遵守率が高いと耐性菌の院内水平伝播が抑制されるという趣旨の論文で、「接触予防策が有用だというエビデンスを示せ」と言われたときに出せそう。ただ内容的には必ずしも接触予防策の徹底が院内水平伝播を抑制するということを直接的に示しているわけではない。

 

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