特別ケア環境における緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)感染症:英国の大規模病院 4 施設における分子生態学および伝播動態★★

2021.05.30

Pseudomonas aeruginosa infection in augmented care: the molecular ecology and transmission dynamics in four large UK hospitals

 

F.D. Halstead*, J. Quick, M. Niebel, M. Garvey, N. Cumley, R. Smith, T. Neal, P. Roberts, K. Hardy, S. Shabir, J.T. Walker, P. Hawkey, N.J. Loman

*Queen Elizabeth Hospital, UK

 

Journal of Hospital Infection (2021) 111, 162-168

 

 

背景

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、高頻度にみられる日和見病原体で、複数のアウトブレイクにおける分子タイピングにより、病院の給水システムの汚染が患者の感染獲得と関連付けられている。

 

目的

英国のアウトブレイクが発生していない特別ケア環境における緑膿菌伝播率の意味を明らかにすること。

 

方法

16 週間の期間にわたり、病院 4 施設(W、X、Y、Z)の特別ケアユニットにおけるすべての水道蛇口について緑膿菌検査のためのサンプル採取を行い、臨床分離株を回収した。緑膿菌の蛇口サンプル分離株および臨床分離株に対して全ゲノムシークエンシングを実施し、その結果から疫学データを用いた判定により、給水システムからの感染獲得を「確実」(レベル1)、「ほぼ確実」(レベル2)、「可能性あり」(レベル3)、および「証拠なし」(レベル4)に分類した。

 

結果

各病院において 3 回すべてのサンプル採取時点(開始時、中間時、終了時)で蛇口に陽性が認められた:W(16%)、X(2.5%)、Y(0.9%)および Z(2%)。また、全体で持続的な陽性結果が蛇口 51 個で認められた。全ゲノムシークエンシングにより、病院 3 施設で緑膿菌陽性患者において蛇口からの伝播が考えられる(レベル1、2 および 3)と判定された:W(63%)、X(54.5%)および Z(26%)。分離株の関連性の基準(「疫学的関連が強い」および「系統学的距離なし」)に基づき、本研究の患者の約 5%が「確実」に集中治療室の水道蛇口から緑膿菌を獲得したと判定された。本研究では、蛇口から患者への伝播の証拠が広範に認められ、特に最も新しい病院(W)では陽性蛇口の割合が最も高かった。

 

結論

全体的な結果から、特定の状況では水道蛇口が緑膿菌による院内感染症の感染源である可能性が極めて高いこと、また感染制御策の広範な導入により、感染症に対して大きな影響を及ぼす可能性が示唆される。

 

サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

緑膿菌の院内感染において、手洗い場を含む給水システムが供給源となることがこれまでの多くの研究で明らかとなっている。一方で、伝播の関連性を証明するため使われていたこれまでの分析方法は、全ゲノムシーケンス(WGS)と比較すると識別能力が低く、疫学的関連性を過大評価してきた可能性がある。WGSは次世代シーケンサーの出現により、より簡便に安価に、かつ精確に実施することが可能となった。その結果、これまで環境と患者との関連性について十分に証明できていなかったことが明確となり、逆に関連性ありとしていたものが実は関連性がなかったということにもなる。新たな分子疫学解析ツールとしてWGSは今後様々なところで利用されるようになることが予測される。

 

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