オランダの教育病院における 2 件のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(vancomycin-resistant Enterococcus faecium;VRE)アウトブレイクの環境サンプリングと全ゲノムシークエンシングを用いた封じ込めの成功★

2021.05.30

Successful containment of two vancomycin-resistant Enterococcus faecium (VRE) outbreaks in a Dutch teaching hospital using environmental sampling and whole-genome sequencing

 

K.B. Gast*, A.J.G. van Oudheusden, J.L. Murk, J.J.J.M. Stohr, A.G. Buiting, J.J. Verweij

*Elisabeth-TweeSteden Hospital, The Netherlands

 

Journal of Hospital Infection (2021) 111, 132-139

 

 

背景

バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci;VRE)は院内アウトブレイクを引き起こす可能性がある。本稿では 2018 年にオランダ・ティルブルフの Elisabeth-Tweesteden 病院で同定された VRE の全保菌者について述べた。

 

目的

環境サンプリングと全ゲノムシークエンシング(WGS)を用いて VRE 分離株の遺伝的関連性および共通の環境リザーバの可能性を調査すること。

 

方法

感染制御策は接触隔離、接触調査、点有病率スクリーニング、環境サンプリング、清掃および消毒で構成された。VRE 分離株は MiSeq シークエンサー(Illumina 社、San Diego、CA、米国)を用いて配列を決定し、SPAdes v.3.10.1 を用いてアセンブリを行った。コアゲノム複数部位塩基配列タイピングとアクセサリー遺伝子のアレル多様性に基づいた最小全域および近隣結合樹を Ridom SeqSphere+ ソフトウェア(Ridom 社、Münster、ドイツ)を用いて作成した。

 

結果

1 年にわたって VRE 保菌者 19 例が同定され、そのうち 17 例は 2 件のアウトブレイクの一部であった。環境の清掃および消毒前は、55 件(14%)の環境サンプルが VRE 陽性であった。51 の分離株(23 件の患者サンプルおよび 28 件の環境サンプル)が WGS 解析に利用できた。44 の分離株が ST117-vanB に分類され、5 つが ST17-vanB に、2 つが ST80-vanB に分類された。アウトブレイク 1(N = 22)およびアウトブレイク 2(N = 22)由来の分離株は ST117-vanB に属していた。しかし、WGS によってアレルの相違が 257 の異なるクラスター型が示された。

 

結論

2 件のアウトブレイク株の WGS によって遺伝的関連性についての識別情報がもたらされ、共通の環境リザーバの仮説が否定された。高度な環境汚染はより高頻度の VRE の伝播に関連していた。環境汚染の定量は VRE の伝播の可能性を反映するかもしれず、そのため感染制御策の支援となる可能性がある。

 

サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

腸球菌は腸管の常在菌であり、その病原性は高くない、しかしながらVREは医療施設内感染において増加傾向を示し、ヨーロッパにおいても2014年と2018年とを比較すると分離率は14%から18%と確実に増加している。VREはグラム陽性菌の治療薬であるグリコペプチド系抗菌薬に耐性であり、プラスミドを介した他の菌種への伝達が危惧され、VREのvanA遺伝子がMRSAに伝達されたVRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)がわずかであるが報告されている。本論文は耐性菌が少ないとされるオランダからの報告であるが、2つのアウトブレイクにおいて両者ともST117であったが、WGSにより別々のアウトブレイクであること、また二つのアウトブレイクがと共通環境ではないことが証明された。近年、全ゲノムシーケンシング(WGS)が簡便かつ安価(安価と言えども他の遺伝子解析法よりははるかに高価ではあるが)になり、これまでのパルスフィールド電気泳動法などの従来の分析手法よりもさらに精確な分子系統樹を作成することが可能となっており、今後WGSは分子疫学の主要な解析方法となるであろう。

 

 

 

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*Universidad Camilo José Cela, Spain

Journal of Hospital Infection (2024) 147, 63-67


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