オランダの教育病院の医療従事者および患者において全ゲノムシークエンシングによって確認されたSARS-CoV-2伝播★★

2021.04.30

Transmission of SARS-CoV-2 among healthcare workers and patients in a teaching hospital in the Netherlands confirmed by whole-genome sequencing

 

S. Paltansing*, R.S. Sikkema, S.J. de Man, M.P.G. Koopmans, B.B. Oude Munnink, P. de Man

*Franciscus Gasthuis & Vlietland Hospital, the Netherlands

 

Journal of Hospital Infection (2021) 110, 178-183

 

目的

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの早期段階について、疫学的データおよび全ゲノムシークエンシングデータを用いて、オランダの教育病院 1 施設の医療従事者および患者における感染源を調査すること。

 

方法

2020 年 4 月 3 日 から 5 月 11 日に、医療従事者 88 名および患者 215 例がCOVID-19 と診断された。医療従事者30 名および患者 20 例について、全ゲノムシークエンシングのデータが得られた。

 

結果

医療従事者および患者において、それぞれ 7 つおよび 11 の配列型が同定された。クラスター A は、もっとも高頻度の配列型で、医療従事者 23 名(77%)で検出され、このうち 14 名(61%)が患者との直接的接触を、9 名(39%)が間接的接触を有していた。さらに、COVID-19 コホート隔離病棟に入院していなかったが、入院中に検査陽性となった患者 7 例は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)クラスター A に感染していた。全医療従事者に対してマスクの普遍的着用を指示し、食事や休憩の際に身体的距離を取るよう強調した後、患者から医療従事者、または医療従事者から医療従事者、あるいは医療従事者から患者への伝播の証拠は認められなくなった。

 

結論

患者と医療従事者が SARS-CoV-2 クラスター A に感染していたという結果から、医療従事者から医療従事者への伝播と、医療従事者から患者への伝播の両方が示唆される。

 

 サマリー原文(英語)はこちら

 

監訳者コメント

近年、次世代シーケンサー(NGS)という言葉を新型コロナ以後頻繁に目にするようになった。その理由は新型コロナウイルスの変異株を見つけるためには検体中のウイルス RNA から全塩基配列を決定し、既存の配列と比較しなければならない。全ゲノムシーケシング(WGS)とはウイルスの全塩基配列(SARS-CoV-2 は約 30,000 塩基程度)を決定することであり、そこから塩基配列変異部分を見つけ出すのである。したがって、全遺伝子配列がわかるとウイルス同士の違いがわかり、分子疫学調査に威力を発揮する。これまで WGS には莫大な費用と手間と時間がかかっていたが、NGS ではその費用は安くなり解析時間も短くなった。ナノポア・シーケンスという第 4 世代 NGS は、さらに簡便に安価に短時間で WGS が可能なり、リアルタイム WGS とも言われるように数日で新型コロナウイルスの変異がわかるようになっている。本論文でもこの手法を利用して、院内で発生したアウトブレイクの解析を実施し、職員間での伝播、および職員から患者への感染が明らかとなった。WGS は変異株のみならず、分子疫学的調査において威力を発揮する。

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