カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)拡散の封じ込めを目的としたアイルランドの全域プログラムによる初期の効果★
Initial impact of a national programme to contain the spread of carbapenemase-producing Enterobacterales in Ireland
A. Vellinga*, W. Brennan, H. Humphreys, K. Burns
*National University of Ireland Galway, Ireland
Journal of Hospital Infection (2021) 109, 107-114
背景
カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)は、医療関連感染症の新たな原因として認識されるようになっている。2017 年 10 月、アイルランドで CPE に関する国家的緊急事態宣言が出され、CPE サーベイランスの改善、成績のモニタリングおよび報告の制度化、ならびに CPE 全国専門家諮問グループの設置に至った。
目的
CPE を制御するためにとられた方策の効果を評価すること。
方法
2017 年 8 月から、Health Service Executive(HSE)のすべての急性期病院 に対して、CPE 制御に関する成績指標(CPE 検査数および CPE 新規検出件数)の報告を義務付けた。この要請により、スクリーニングサンプル数が増加した。病院ごとの全体的な病床利用日(BDU)を用いて、月ごとの発生率を算出した。新たに検出されたすべての CPE を、さらなる遺伝子型検査に供した。データの解析および予測を、2 つの期間(方策実施後の 1 年目および 2 年目)について実施した。
結果
2 年間の研究期間において、CPE 症例の 10,000 BDU あたりの平均発生率は、1 年目の 1.3(± 0.5)から 2 年目には 1.7(±0.4)に上昇したが、スクリーニング 1,000 件あたりの CPE 症例の発生率は 1 年目の 3.2(± 0.7)から 2 年目には 2.3(±0.6)に低下した。もっとも多く検出された遺伝子は OXA-48(72%)、次いで KPC(13%)および NDM(7%)であった。
結論
アイルランドにおける CPE に対する予防および制御の方策を強化するための National Public Health Emergency の宣言は、欧州連合/欧州経済地域における独自のアプローチである。筆者らの予備的結果から、アイルランドの急性期 HSE 病院システムにおける CPE の発生率を制御する上で、有効な効果があることが示唆される。
監訳者コメント:
CPE の増加は、公衆衛生上の緊急的課題である。すなわちカルバペネム系薬剤(メロペネムやイミペネムなど)は耐性菌に対する最後の残された治療薬であり、CPE の出現はこの貴重な治療薬が効かない状況を意味する、すなわち、「抗菌薬がなかった時代」に逆戻りすることとなる。アイルランドにおける CPE の緊急事態宣言後の国家的な耐性菌サーベイランスは、すべての急性期病院の入院患者に入院 24 時間以内に便または直腸スワブによる検査実施、また ICU・HCU、血液・癌・移植病棟等の集中治療あるいはがん治療ユニットへの入院患者はその後も毎週実施、透析患者は 3 か月毎のスクリーニングを実施することが要求されている。これにより、①報告の義務化による検査数の増加とその結果、精確な実態の把握、②迅速な結果の解析とフィードバック、③専門家諮問グループによる対策の立案、が可能となる。本論文において、感染制御における国家的サーベイランスの重要性が理解できるであろう。
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