新生児における肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)による院内感染症:分子疫学研究★

2021.02.28

Nosocomial infection by Klebsiella pneumoniae among neonates: a molecular epidemiological study

K. Luo*, J. Tang, Y. Qu, X. Yang, L. Zhang, Z. Chen, L. Kuang, M. Su, D. Mu
*Sichuan University, West China Second Hospital, China

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 174-180

背景
新生児における肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)による院内感染症および肺炎桿菌の薬物耐性は、大きな懸念である。高病原性肺炎桿菌感染症は、世界的に次第に増加が認められている。カルバペネム耐性高病原性肺炎桿菌による感染症は、臨床治療にとって課題となっている。

目的
新生児集中治療室(NICU)内の院内感染症における肺炎桿菌株の薬物耐性の傾向にみられる変化について評価すること、カルバペネム耐性肺炎桿菌の薬物耐性遺伝子および病原性遺伝子の分析を行うこと、およびこれらのカルバペネム耐性肺炎桿菌株が高病原性肺炎桿菌であるかどうかを明らかにすること。

方法
2013 年から 2018 年に肺炎桿菌による院内感染症を有した新生児計 80 例を、後向きに検討した。肺炎桿菌株 80 株を対象に薬物感受性試験を実施し、このうちカルバペネム耐性肺炎桿菌株 12 株についてさらなる検討を行った。

結果
肺炎桿菌は、NICU における院内感染症の 26.9%を占めた。カルバペネム耐性肺炎桿菌株は15.0%を占めた。院内感染症の肺炎桿菌株 80 株のうち、カルバペネム耐性肺炎桿菌の割合は、2017 年では 33.3%、2018 年では 53.3%であった。カルバペネム耐性肺炎桿菌株 12 株のうち 1 株は、drawing test において陽性であった。カルバペネム耐性肺炎桿菌株 12 株は、以下の 4 つの完全ゲノム複数部位塩基配列型(complete genome sequence types)に分けられた:cgST1(N = 2)、cgST2(N = 1)、cgST3(N = 1)、および cgST4(N = 8)。カルバペネム耐性に関わる遺伝子のうち、cgST4 株は NDM-5 を、cgST2 株および cgST3 株は NDM-1を、そして cgST1 株は IMP-4 を保有していた。カルバペネム耐性肺炎桿菌株 12 株のうち、rmpA/rmpA2(高病原性肺炎桿菌との関連が高い)を保有している株はなかった。

結論
新生児におけるカルバペネム耐性肺炎桿菌による院内感染症は増加しつつあるが、本研究では、カルバペネム耐性肺炎桿菌株のうちに高病原性肺炎桿菌は認められなかった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
肺炎桿菌(KP)は人体の消化管や上気道に存在し、主要な院内感染の起炎菌のひとつであり、ESBL 産生は最も多い薬剤耐性機構である。近年、ESBL 産生株に加え、カルバペネム耐性株の検出が増加している。カルバペネマーゼ遺伝子型は、KPC、NDM、IMP等があるが、国や地域毎にその遺伝子型が異なる。2017 年 3 月より感染症発生動向調査によりカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)の病原体サーベイランスが開始されているが、2018 年に日本で分離された CRE は1,684 株で IMP 型が 254 株(85.5%)を占め、うち KP は37.5%で、増加傾向にある。本論文は中国の NICU からの報告であるが、日本でも CRE のNICU でのアウトブレイクの報告があり、今後注意が必要であり、遺伝子検査を含めた耐性菌検出体制の充実が必要である。
参考:国立感染症研究所の病原微生物検出情報(IASR)のカルバペネム耐性腸内細菌科医最近の病原体サーベイランス、2018: https://www.niid.go.jp/niid/ja/cre-m/cre-iasrd/9124-475d01.html

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