医療環境内における SARS-CoV-2 の検出:英国の COVID-19 アウトブレイクの第一波時における多施設共同研究★★

2021.02.28

Detection of SARS-CoV-2 within the healthcare environment: a multi-centre study conducted during the first wave of the COVID-19 outbreak in England

G. Moore*, H. Rickard, D. Stevenson, P. Aranega-Bou, J. Pitman, A. Crook, K. Davies, A. Spencer, C. Burton, L. Easterbrook, H.E. Love, S. Summers, S.R. Welch, N. Wand, K-A. Thompson, T. Pottage, K.S. Richards, J. Dunning, A. Bennett
*Public Health England, UK

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 189-196

背景
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS- CoV-2)が病院環境内でどのように拡散しているかを理解することは、スタッフの保護、効果的な感染制御策の実施、および院内伝播の予防において極めて重要である。

方法
入院患者周囲の空気中および環境表面上における SARS-CoV-2 の存在について、患者の呼吸器症状の有無にかかわらず、検討を行った。2019 年の新型コロナウイルスアウトブレイクの第一波時に、イングランドの病院 8 施設で環境サンプル採取を行った。サンプルについて、逆転写 PCR およびウイルス分離試験を用いて分析を行った。

結果
SARS-CoV-2 RNA は、環境表面 336 カ所中 30 カ所(8.9%)で検出された。サイクル閾値は、28.8 ~ 39.1 の範囲であり、2.2 × 105 ~ 59 ゲノムコピー/スワブに相当した。同時に測定した細菌数は低く、このことから全 8 病院において看護師および施設スタッフにより実施された清掃は効果的であったことが示唆される。SARS-CoV-2 RNA は、患者 4 例から 1 m 以内の距離で採取された空気サンプル 55 個中 4 個で検出された。すべての場合について、ウイルス RNA 濃度は低く、空気中10 未満~ 460 ゲノムコピー/m3 の範囲であった。感染性ウイルスは、分析した PCR 陽性サンプルのいずれからも回収されなかった。

結論
効果的な清掃により、媒介物(接触)伝播のリスクを低減できるが、表面の種類によっては SARS-CoV- 2 の生存、持続および/または拡散が促進される可能性がある。空気中におけるウイルス RNA の存在については低濃度か検出不能であったことから、エアロゾル発生手技および非エアロゾル発生手技に対する具体的な個人防護具の使用に関する現行のガイダンスが支持される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
これまで COVID-19 の感染経路は飛沫感染と接触感染が主であることが一般的に受け入れられているが、空気感染の可能性を否定できておらず、特殊な環境下では発生することが報告されている。環境中のコロナウイルスの検出は、防護具を含む感染対策手順に影響するため大きな関心事である。本論文では適切な清拭消毒を含む環境整備により環境汚染を最小にすることができること、また患者周囲の空気中へのウイルスの浮遊量も少ないことが確認され、現状の飛沫・接触感染対策で十分であると結論づけている。しかしながら、感染性はエアロゾル発生の状況と曝露時間により大きく左右されるため、この結果のみで安心することはできない。

同カテゴリの記事

2019.04.15

Qualitative study of the factors impacting antimicrobial stewardship programme delivery in regional and remote hospitals

2009.06.30

Molecular characterisation of outbreak-related strains of vancomycin-resistant Enterococcus
faecium
from an intensive care unit in Beijing, China

2010.07.30

The 2007 Belgian national prevalence survey for hospital-acquired infections

2017.11.30

Dwell time and risk of central-line-associated bloodstream infection in neonates

JHIサマリー日本語版サイトについて
JHIサマリー日本語版監訳者プロフィール
日本環境感染学会関連用語英和対照表

サイト内検索

レーティング

アーカイブ