全ゲノムシークエンシングにより調査したアイルランドにおける Pantone-Valentine 型ロイコシジン陽性市中獲得型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の複数の別々のアウトブレイク

2021.02.28

Multiple distinct outbreaks of Panton-Valentine leucocidin-positive community-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus in Ireland investigated by whole-genome sequencing

B.A. McManus*, B.K. Aloba, M.R. Earls, G.I. Brennan, B. O’Connell, S. Monecke, R. Ehricht, A.C. Shore, D.C. Coleman
*Dublin Dental University Hospital, University of Dublin, Ireland

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 72-80

背景
Pantone-Valentine 型ロイコシジン(PVL)陽性市中獲得型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(community-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus;CA-MRSA)は感染症のアウトブレイクとの関連性が高まっている。

目的
全ゲノムシークエンシング(WGS)を用いて PVL 陽性 CA-MRSA の複数のアウトブレイクの疑いを調査すること。

方法
アウトブレイクの疑いに関連する 46 の分離株(アイルランドの別々の病院 3 施設[H1-H3]の 36 人由来のものと H2 に関連する別々の家族を含む別々のインシデント由来のもの)を whole-genome multi-locus sequence typingにより調査した。

結果
H1 の分離株の 8/10 および H2 の分離株の 6/6である PVL-陽性 t008 ST8-MRSA-IVa 分離株から成る 2 つのクラスター(CH1 と CH2)が特定された。各クラスター内では隣接する分離株の対立遺伝子の差異は 5 以下で分かれていたが、クラスター間の対立遺伝子の差異は 73 以上と特定され、2 つの独立したアウトブレイクであることを示した。H3 の産科病棟由来の分離株は、4 つの PVL 陰性 t4667 ST5-MRSA-V 分離株から成る CH3-SCI と 14 の PVL 陽性 t002 ST5-MRSA-IVc 分離株から成る CH3-SCII の 2 つのクラスターを形成した。クラスター内では隣接する分離株の対立遺伝子の差異は 24 以下で分かれていたのに対し、両方のクラスターは 1,822 の対立遺伝子の差異で分かれており、2 つの別々の H3 アウトブレイクであることを示した。H2 に関連する 2 つの別々の家族である FC1(N = 4)と FC2(N = 7)由来の 8 つの PVL 陽性 t127 ST1-MRSA-V+fus 分離株と 3 つの PVL 陰性 t267 ST97-MRSA-V+fus 分離株は、3 つの別々のクラスター(FC1[t127]、FC2[t127]、FC2[t267])を形成した。クラスター内の隣接する分離株は近縁関係にあり、対立遺伝子の差異は 7 以下を示した。家族内の伝播は明らかであったが、クラスター間で 48 以上の対立遺伝子の差異が検出されたことで家族間の伝播はないことが示された。

結論
PVL 陽性 CA-MRSA の医療現場への高頻度の移入、伝播およびアウトブレイクとの関連性は、現在も続く深刻な懸念である。WGS はそのようなアウトブレイクを確定的に解明するうえで識別力が高く有益な方法である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
近年 WGS のような先進的な分子手法が著しく発達し低コスト化している。その恩恵でSARS-CoV-2 の変異株の検出など一時代前では考えられなかったような事象が現実のものとなっている。一方で、科学的に判明する事実に対して、感染対策上どのように対応するのが適切なのか分からないといった現象が発生している。分子疫学的な知見の蓄積と並行して実世界における適用可能な対応についても検討していかなければならない。

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