入院患者における汎薬剤耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)感染症による超過死亡率
Excess mortality due to pandrug-resistant Acinetobacter baumannii infections in hospitalized patients
S. Karakonstantis*, A. Gikas, E. Astrinaki, E.I. Kritsotakis
*University of Crete, Greece
Journal of Hospital Infection (2020) 106, 447-453
背景
汎薬剤耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)は、院内感染病原体であるとの報告が世界的に増加傾向にあるが、その臨床的影響を究明することは難しい。
目的
急性期ケア施設における汎薬剤耐性 A. baumannii 感染症に起因する超過死亡率の範囲を評価すること。
方法
ギリシャの 3 次ケア紹介病院における 4 年間の本コホート研究において、汎薬剤耐性 A. baumannii 感染症による院内超過死亡率を推定するために、競合リスク生存解析法を用いて汎薬剤耐性 A. baumannii 感染患者と保菌患者を比較した。
結果
研究コホートは 91 例(年齢中央値 67 歳、男性 77%)であった。大部分の患者で、汎薬剤耐性 A. baumannii が最初に分離されたのは集中治療室(ICU)(51 例、57%)、あるいは ICU 退室後(26 例、29%)であった。院内全死亡率は 68%(95%信頼区間[CI]57.5% ~ 77.5%)であった。汎薬剤耐性 A. baumannii の感染患者(62 例、68%)と保菌患者(29 例、32%)のベースライン特性は同様であったが、保菌患者と比較して、感染患者の 30 日死亡の絶対超過リスクは 34%(95%CI 14% ~ 54%)であった。多変量競合リスク回帰分析では、汎薬剤耐性 A. baumannii 感染症により、30 日院内死亡の 1 日あたりのハザードが有意に上昇し(原因別ハザード比[HR]3.10、95%CI 1.33 ~ 7.21)、同時に 1 日あたりの退院率が低下し(原因別 HR 0.24、95%CI = 0.08 ~ 0.74)、その結果、長期入院につながることが示された。血流感染症に、より多大な影響が認められた。
結論
汎薬剤耐性 A. baumannii 感染症に対する有効な新規抗菌薬は、治療患者の 3 例に 1 例で死亡を阻止し、入院期間を短縮することが期待される。しかしながら、利用可能な治療選択肢はいまだ非常に限られており、汎薬剤耐性 A. baumannii の医療関連感染の伝播予防に重きを置くことが今後も重要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
汎薬剤耐性 A. baumannii 感染症の治療予後は極めて悪い。もともとA. baumanniiの多くはバイオフィルム産生菌であり、抗菌薬浸透性が悪く治療に難渋する。このため、施設内におけるA. baumanniiの蔓延は避ける必要がある。日本では汎薬剤耐性 A. baumannii 感染症患者は欧米諸外国と比較して圧倒的に少ないが、中国や韓国では臨床分離される A. baumannii の 3 割以上がこれに相当する。
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