病院管理データを用いた受動的モニタリングツールは、医療関連感染症の特異的な早期検出を可能にする★
A passive monitoring tool using hospital administrative data enables earlier specific detection of healthcare-acquired infections
J. Rewley*, L. Koehly, C.S. Marcum, F. Reed-Tsochas
*National Institutes of Health, USA
Journal of Hospital Infection (2020) 106, 562-569
背景
医療関連感染症は医療システムに大きな負担をもたらしている。医療関連感染症を検出するための現在の方法には、高額な費用、長い処理時間、および正確度が不十分なことが組み合わされることによる限界があり、その有効性は限られる。
方法
本研究では、患者が、感染症が臨床的に疑われる他の患者と同じ病棟で過ごす時間(「空間共有」と呼ぶ)を、その後の院内関連感染症を予測するためのツールとして用いることが可能かどうかを検討した。接触者追跡と比較して、この方法は手動で収集したデータではなく、受動的に収集された電子データを利用することにより、モニタリングの性能を向上させる。2011 年から 2015 年について、全入院患者の記録 133,304 件を英国の医療システムから抽出した。5 種類の病原体のそれぞれについて、共存時間、検査の感度および特異度、ならびに早期の空間共有がどれだけ真陽性症例として感染症を予測するかに基づいて、受信者動作特性曲線下面積(AUROC)を算出した。
結果
5 種類の病原体について、AUROCは 0.92 ~ 0.99 の範囲であり、陰性対照については 0.52 であった。空間共有の至適カットポイントは、25 ~ 59 時間の範囲であり、最速で平均 1 日早く真陽性症例を検出することにつながったと考えられる
解釈
これらの所見から、空間共有時間は医療関連感染症の検出に有用となる可能性があると考えられ、現在の標準医療よりも早期に検出できる可能性が示されている。この指標を院内でリアルタイムのデータに基づき前向きに用いることで、個々の感染患者をより早期に治療すること、初発感染患者に由来する潜在的な二次感染を予防することが可能となり、その後の感染症は抑制可能できると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
院内感染による追加費用は英国では 1 例あたり約 40 万円、年間 1,200 億円の医療費増と見積もられている。現状での感染者の特定(接触者調査)は、微生物学的検査での時間的側面、検査の特異性や精度面において十分とは言えない。それを補うために電子データ(電子カルテ等)を利用した「空間共有」(同室・同一病棟)の情報を利用することで、接触状況を早期に察知し、潜伏している二次感染者を発見することが可能となり、感染制御の面と医療コストの両面において有用である可能性がある。今後のさらなる検証が必要である。
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