極めて安定性の高い次亜塩素酸製剤と創傷治療に用いられる殺菌薬との殺菌効果の比較:バイオフィルムを有するまたは有さない微生物に対する in vitro 研究★

2020.06.30

Antimicrobial efficacy of a very stable hypochlorous acid formula compared with other antiseptics used in treating wounds: in-vitro study on micro-organisms with or without biofilm
R. Herruzo*, I. Herruzo
*Universidad Autónoma de Madrid, Spain
Journal of Hospital Infection (2020) 105, 289-294


背景
多くの消毒薬が創傷治療に用いられている。
目的
ClHO(Clortech®)の創傷、健康な皮膚、および粘膜に対する殺菌効果を、他の消毒薬と比較すること。
方法
13 種類の殺菌製剤の殺菌効果について、8 種類の微生物(3 種類のグラム陽性菌、3 種類のグラム陰性菌、2 種類の酵母菌)を細菌保持体(綿生地)に播種して検討した。さらに、バイオフィルムの形成を認める黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に対する効果の喪失について、効果の高かった 6 種類の製剤を評価した。
結果
クロルヘキシジン(1%)は、1 分間での殺菌効果が最も高かった。5 分間では、ClHO 500 mg/L および 1,500 mg/L が、対象とした他の消毒薬と比べて同程度か、より優れた活性を示した。ClHO 300 mg/L により、10 分間で同等の効果が達成された。バイオフィルムのために効果がほとんど失われた製剤はクロルヘキシジン 1%であった一方、ポビドンヨード(PVP)-I 1% および ClHO 300 mg/L または 500 mg/L では、バイオフィルムによる影響は中等度であった。バイオフィルムがある場合に最も高い効果を示したのは ClHO 1,500 mg/Lであった。
結論
ClHO は低度から中等度の濃度(300 mg/L または 500 mg/L)で効果の高い消毒薬であり、5 ~ 10 分間で創傷および粘膜に用いることができる。低濃度の ClHO は、対象とした他の消毒薬とともに、バイオフィルムがある場合に効果が低下するか、大きな影響を受けた。ClHO 1,500 mg/L は、バイオフィルムの有無にかかわらず極めて効果が高く、健康な皮膚に対して 5 分間で使用可能である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
次亜塩素酸を創傷消毒に使用するための予備実験であるが、臨床応用には越えるべきハードルがいくつかある。本剤はゆっくりとした消毒効果や残存効果がないことから、一般的に術野消毒には使用されていない。一方、創傷が感染し、1 グラムあたりの菌量が 106 を超えると創傷治癒に影響するため、菌量を減らし、壊死組織を除去する必要がある。感染すると様々な炎症反応が惹起され、様々な蛋白溶解酵素が産生される結果、上皮化が阻害され創傷の治癒が遅延する。したがって、消毒剤は必要であるが、バイオフィルムに邪魔されず、かつ細胞傷害性のないものを選択することが必要であり、次亜塩素酸が実際にどれほど有効なのかは今後の臨床研究を待つしかない。

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