ギリシャの新生児集中治療室において国特有の文化と状況が医療従事者の感染予防に関する認識に及ぼす影響★

2020.04.28

Influence of national culture and context on healthcare workers’ perceptions of infection prevention in Greek neonatal intensive care units


V. Triantafillou*, I. Kopsidas, A. Kyriakousi, T.E. Zaoutis, J.E. Szymczak
*Children’s Hospital of Philadelphia, USA
Journal of Hospital Infection (2020) 104, 552-559
背景
新生児集中治療室(NICU)における医療関連感染症(HAI)は、病的状態、死亡および医療費の増大をもたらす結果となる。ギリシャの NICU における HAI の発生率は、欧州の中でも最も高い方である。この環境において、HAI の伝播および予防介入の実施に影響を及ぼす因子を明らかにすることが必要である。
目的
ギリシャの NICU において HAI 予防に関する医療従事者の認識を明らかにすること。
方法
アテネの病院 3 施設に勤務する NICU スタッフ(医師および看護師)および感染予防関係者(感染症治療医および感染制御看護師)を対象に定性的面接を実施した。面接はギリシャ語で行い、英語に書き起こして翻訳し、グラウンデッド・セオリーの改変アプローチを用いて分析した。
結果
面接を行ったのは 37 名の回答者(20 名が医師、17 名が看護師)であった。HAI 予防に対する主な障害として以下の 4 点が特定された:(1)リソース不足によるスタッフ不足、および狭隘な医療スペース、(2)HAI 予防に関する知識不足、(3)ギリシャ特有の文化規範(ピラミッド型の意思決定システム、公務員が給料以上に働こうとしないこと、個人的体験の方がエビデンスに基づく知識より優れているという信念、社会的課題に対する能動的ではなく受動的な対応など)、(4)国内における感染予防インフラの不足。回答者らは、これらの障害を克服するには、組織的なイニシアティブ、HAI に関わる実践成績に関する質の高いデータ、HAI 予防をめぐる実践への関与を構築するための人間関係、ならびにピラミッド構造を利用して「トップダウン」で変化を促進することによって可能であると考えていた。
結論
ギリシャの NICU において HAI 予防介入を実施するには、ケア提供を取り巻く状況を考慮し、国に特有の文化に特に注意を払う必要があるだろう。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
ギリシャの医療制度は国民皆保険制度であり、基本的にすべて無料で公的医療が提供され、医療費は出来高払制であり、病院の多くが公立であり、したがって医療従事者は公務員であることが特徴である。一方で、ギリシャは EU 諸国の中でもトップレベルの耐性菌の割合であることも知っておく重要な事項である。その様な背景のなかでの、NICUの 現状を報告した本論文は、スタッフ不足や狭隘なスペースなどは日本においても共通した事情であるが、国民性は明らかに異なっている点では救われる。この状況改善のために、不要な感染による医療コスト増大の自覚と積極的な感染対策の知識強化、個々の病院と国家的なサーベイランス体制の構築が必要と述べている。

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