南ヨークシャーにおいて全ゲノムシークエンシングにより同定された地域医療関連多剤耐性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)株の循環★

2019.12.24

Circulation of a community healthcare-associated multiply-resistant meticillin-resistant Staphylococcus aureus lineage in South Yorkshire identified by whole genome sequencing


L. Utsi* , B. Pichon , N. Arunachalam, A. Kerrane, E. Batten, M. Denton, R. Townsend, K.N. Agwuh, G.J. Hughes, A. Kearns
* Public Health England, UK
Journal of Hospital Infection (2019) 103, 454-460
背景
多剤耐性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)による皮膚および創傷感染症の 7 症例からなるクラスターが、南ヨークシャーの小さな都市地域で検出された。最初の微生物学的調査から、分離株は全て、イングランドでまれに認められるspa型(t1476)に属していることが示された。
目的
南ヨークシャーにおける t1476 MRSA の疫学について記述すること。
方法
後向きおよび前向きの症例確認を、地域の複数の微生物学検査室と連絡を取りながら進めた。公衆衛生調査として、症例 9 例のサブセットについて臨床記録の詳細なレビューなどを行った。t1476 MRSA について、遺伝子解析および系統樹解析を実施した。
結果
2014 年 12 月から 2018 年 2 月の期間に、t1476 MRSA 感染症例 32 例が同定された。症例は、高齢の成人であった(年齢 50 ~ 98 歳)。9 例のサブセットについて医療曝露を調べたところ、地域看護師の 1 チームとの頻繁な接触が認められ、1 例を除いて、診断を受ける前に他の 1 例と同日に治療を受けていた。サンプル採取の時点で入院していた症例はいなかった。詳細な調査にもかかわらず、地域看護師のスタッフに保菌者は発見されなかった。長期にわたる保菌者/大量排菌者は発見されなかった。系統樹解析から、南ヨークシャーで発生した t176 MRSA 感染症例は単一系統であったこと、また英国の他の地域に由来する同じ MRSA 株(N = 15)、ならびに公表されているタンザニア由来の遺伝子型とは異なっていることが明らかになった。
結論
遺伝子解析および疫学解析により、2012 年から 2013 年にかけて南ヨークシャーに侵入した多剤耐性 MRSA クローンの市中伝播が、特定のリスク集団に関連した空間‐時間的クラスターが検出される前に発生していたことが明らかにされた。サーベイランスデータから、循環が継続していることが示唆される。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
CPFX:R,CLDM:R,DOXY:R,EM:R, GM:R, ST:R の多剤耐性 MRSA クローンが、新たなる流行株として英国南ヨークシャー地方で発見され、調査が実施された。本株の一部は特定の地域介護ケアを介して拡大したことが推測された。この株の由来として、ST8-t1476-SCCmecⅤ クローンでタンザニア・コンゴ共和国で確認されているが、本株クローンとの繋がりは認められず、その起源は不明である。今後 MRSA 菌血症の国家サーベイランスによるMRSA 耐性クローンの監視と疫学調査が進み、さらなる知見が得られるであろう。感染対応策として、地域の看護スタッフへの感染対策の直接教育と訓練、さらには地域コミュニティでの標準的感染対策のレベルを高く維持することが、MRSA や他の耐性菌の感染リスクを減らすこととなる。

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