病院感染下痢症の有病率、原因および管理に関する横断研究★★

2019.10.15

Cross-sectional study of the prevalence, causes and management of hospital-onset diarrhoea


D. Mawer*, F. Byrne, S. Drake, C. Brown, A. Prescott, B. Warne, R. Bousfield, J.P. Skittrall, I. Ramsay, D. Somasunderam, M. Bevan, J. Coslett, J. Rao, P. Stanley, A. Kennedy, R. Dobson, S. Long, T. Obisanya, T. Esmailji, C. Petridou, K. Saeed, K. Brechany, K. Davis-Blue, H. O’Horan, B. Wake, J. Martin, J. Featherstone, C. Hall, J. Allen, G. Johnson, C. Hornigold, N. Amir, K. Henderson, C. McClements, I. Liew, A. Deshpande, E. Vink, D. Trigg, J. Guilfoyle, M. Scarborough, C. Scarborough, T.H.N. Wong, T. Walker, N. Fawcett, G. Morris, K. Tomlin, C. Grix, E. O’Cofaigh, D. McCaffrey, M. Cooper, K. Corbett, K. French, S. Harper, C. Hayward, M. Reid, V. Whatley, J. Winfield, S. Hoque, L. Kelly, I. King, A. Bradley, B. McCullagh, C. Hibberd, M. Merron, C. McCabe, S. Horridge, J. Taylor, S. Koo, F. Elsanousi, R. Saunders, F. Lim, A. Bond, S. Stone, I.D. Milligan, D.J.F. Mack, A. Nagar, R.M. West, M.H. Wilcox, A. Kirby, J.A.T. Sandoe
*Leeds Teaching Hospitals NHS Trust, UK
Journal of Hospital Infection (2019) 103, 200-209
背景
イングランドの英国国民保険サービスは病院に対して、病院感染下痢症に関するデータを収集するよう指示している。現在、病院感染下痢症に関するデータは得られていない。
目的
内科病棟、外科病棟および高齢者ケア病棟における病院感染下痢症の有病率、病因および管理について明らかにすること。
方法
2016 年に冬季の 1 日および夏季の 1 日にデータを収集した英国の病院について、ボランティアサンプルを対象に横断研究を実施した。72 時間以上入院していた患者を対象に、病院感染下痢症(定義:研究日前日にBristol Stool Scaleのタイプ 5 ~ 7 の排便 2 回以上、かつ入院後48時間超で下痢を発症)のスクリーニングを行った。病院感染下痢症の病因および管理に関するデータを前向きに収集した。
結果
32 病院(急性期病院16、教育病院16)の 141 病棟においてデータが収集された。病院感染下痢症の点有病率は4.5%(5,142例中230例、95%信頼区間[CI]3.9 ~ 5.0%)であった。病院感染下痢症の有病率は、教育病院(5.9%、95%CI 5.1 ~ 6.9%)は急性期病院(2.8%、95%CI 2.1 ~ 3.5%)の 2 倍であった(オッズ比 2.2、95%CI 1.7 ~ 3.0)。可能性のある理由が少なくとも 1 つ同定されたのは 230 例中 222 例(97%)であった:107 例(47%)には関連する基礎疾患があり、125 例(54%)は抗微生物薬を投与されており、195 例(85%)は下痢の原因となることが知られている薬剤を投与されていた。検査を受けた 75 例中 9 例が、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)毒素陽性であった(4%)。80 例(35%)では、下痢の医学的評価が記録されていた。医療記録に病院感染下痢症の記録がある場合、C. difficile の検査を受けている割合が高かった(検査を受けた患者 78%に対し、検査を受けなかった患者 38%、P < 0.001)。144 例(63%)は、下痢発症後に隔離されていなかった。
結論
病院感染下痢症は高頻度にみられる症状で、英国の医療システム全体で毎日数千人の患者が発生している。ほとんどの患者は病院感染下痢症を引き起こす可能性のある複数の原因(主として医原性)を有していたが、医学的評価を受けていたのは 3 分の 1 のみであった。ほとんどの患者は C. difficile の検査を受けておらず、隔離もされていなかった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
2008 年に英国保健省は、“Clostridium difficile infection: How to deal with the problem”において、入院中の下痢症患者に対する対応策として、対応策の頭文字をとって SIGHTを推奨している。すなわち①Suspect:C. difficile感染症を疑い、②Isolation:隔離、③Gloves:手袋とエプロンによる接触感染対策、④Handwashing:石鹸と流水による手洗い、⑤Test:CD 感染症の検査、の 5 つの対応である。しかしながら、本論文の 2016 年の調査では、これらの英国保健省が出した対応策が 8 年後に実施した調査においても十分に徹底されていなかったことが明らかとなった。日本においても「入院中の下痢症」に対しては、このような 5 つの対応を即座に実施することが、CD 感染症に限らず院内発生の下痢症の感染拡大防止に必要である。

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