病院アウトブレイクの可能性がある場合に標識するためのウェブベースのツールの評価:複数の方法を混合して用いた研究★

2019.10.15

Evaluation of a web-based tool for labelling potential hospital outbreaks: a mixed methods study


B. Leclère*, D.L. Buckeridge, D. Lepelletier
*Nantes University Hospital, France
Journal of Hospital Infection (2019) 103, 210-216
背景
サーベイランスデータにおいてアウトブレイクの標識を行うことは、アウトブレイク検出を目的とした高度の分析法のトレーニングをするために必要であるが、この作業を行うためのソフトウェアツールは存在しない。
目的
アウトブレイクの可能性がある場合に標識するためのウェブベースのツールについて、感染制御担当者にとっての使いやすさを評価すること。
方法
複数の方法を組み合わせた研究デザインを用いて、フランスおよびカナダの専門家 25 名が、アウトブレイクの可能性がある場合を同定するためのウェブベースのソフトウェアについてどのように双方向使用を行ったかを評価した。23 種類の微生物による 1 年発生率を示した時系列データについて、各専門家がこのソフトウェアを用いて 11 ~ 12 件ずつ後向きにレビューした。使用者のソフトウェアにおける双方向使用を記録し、混合効果モデルを用いて分析した。使用者のコメントを、定性的方法により分析した。
結果
完了された 240 件のレビューから、アウトブレイクの可能性がある場合として 439 件標識され、ほぼ半数は可能性が高いとされた。使用者の回答と行動の間に有意な不均一性が認められた(評価時間、異なるオプションの使用)。専門家の本ツールにおける双方向使用にも有意な教育効果が認められたが、これは専門家の回答に影響を及ぼさなかったようであった。回答コメントの内容分析では、感染制御担当者にとって早期のアウトブレイク同定は困難であることが示されたが、同時に、ルーチンのサーベイランスにおける評価と同様に、ウェブソフトウェアが有用である可能性も示された。
結論
双方向性のウェブソフトウェアは、感染制御担当者にとって使いやすいとともに有用であった。そのルーチン業務への導入は、専門家にとってアウトブレイクの可能性がある場合の同定を助けるとともに、自動検出アルゴリズムのトレーニングを目的としたデータを生成できる可能性がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
感染予防の世界においても、近年の IT の進歩は、データウエアハウス(DWH クラウド、あるいはコンピューター・アルゴリズムなどの技術により、大きく進歩し、感染症サーベイランス、耐性菌モニタリング、手指衛生遵守状況の把握など可能となっているが、未だに「アウトブレイクの早期検出」は満足のゆく結果がだせていない。このアプリケーションは、①できる限りアウトブレイク判断に必要なデータが取得できる、②疑わしいアウトブレイクを検索するため対話式である、③アウトブレイクを追跡でき記録に残せる、④複数のユーザーが同時に使用可能、を条件として開発された。相応の評価はされているが、アウトブレイクの早期発見にはさらなるアプリ開発が必要であることには間違いない。日本では J-SIPHE という全国レベルのサーベイランスが開始された、興味のある方はHP(https://j-siphe.ncgm.go.jp/Overview)を参照して頂きたい。
「全国の医療機関における感染症診療状況、感染対策への取り組みや構造、医療関連感染の発生状況、主要な細菌や薬剤耐性菌の発生状況及びそれらによる血流感染の発生状況、抗菌薬の使用状況等に関する情報を集約させ、さらに、それらを参加医療機関や参加医療機関の地域等が活用していくことを目的とするものです。また、データの集約による日本の National data base の構築としての役割も担っています。」

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