アシネトバクター―感染制御に対するトロイの木馬か?

2019.05.10

Acinetobacter ― the trojan horse of infection control?


L. Teare*, N. Martin, W. Elamin, K. Pilgrim, T. Tredoux, J. Swanson, P. Hoffman
*Broomfield Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2019) 102, 45-53
背景
地域の熱傷集中治療室(ICU)において、OXA-23 産生および OXA-51 産生多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumanii)の 5 件の症例が発生した。3 例は国外の他の地域(ドバイ、ムンバイ)から移送され、入院時に保菌していた。2 例は、最適な予防策にもかかわらず、多剤耐性 A. baumanii を獲得した。2 例とも同室でケアを受けていた。
方法
地域の熱傷 ICU における多剤耐性 A. baumanii アウトブレイクに関する多領域専門家による調査。
結果
最初の症例の伝播機序は、共用の廊下に多剤耐性 A. baumanii を飛散させるような、手術室の動きによる汚染空気であったと考えられる。最初の症例と2 例目のあいだに手術室に入った多剤耐性 A. baumanii 感染患者はいなかった。2 件の獲得例の内 2 件目の症例の伝播機序は、患者の使用後に汚染除去が不十分であったシャワーユニットによると考えられる。
結論
接触予防策および環境清掃が最適な状況でのアウトブレイクにおいて、他の伝播機序について慎重に検討することが重要である。これを怠ると、伝播の真の原因に対処することができず、問題が再発する可能性がある。熱傷治療施設内の熱傷手術室は、陰圧で管理されるようデザインすべきであると推奨されている。これは、一般的な手術室の換気と反対である。シャワーが使用される場合、耐性菌を有する患者の使用後に、シャワーヘッドとホースの両方を交換すべきである。非接触式消毒装置(過酸化水素の散布など)の作用について再考する必要があり、室内の「トロイの木馬」的なあらゆる事項に対して、常に警戒すべきである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
日本でも多剤耐性アシネトバクター属菌の持ち込みとそれに引き続いた院内拡散によるアウトブレイクが度々報告されている。まずは持ち込み例に注意すること、そしてそこからの 2 次的な拡散に注意することが重要である。特にアシネトバクター属は本事例のように単純な接触予防策の遵守のみでは封じ込めできないことが度々報告されている。知らない間に潜入し、知らない間に拡散する、まさに「トロイの木馬」のような細菌である。

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