個人におけるリスクと社会におけるリスクのバランスをとること:病院における抗菌薬処方行動に関する定性的研究のシステマティックレビューおよび統合
Balancing the risks to individual and society: a systematic review and synthesis of qualitative research on antibiotic prescribing behaviour in hospitals
E.M. Krockow*, A.M. Colman, E. Chattoe-Brown, D.R. Jenkins, N. Perera, S. Mehtar, C. Tarrant
*University of Leicester, UK
Journal of Hospital Infection (2019) 101, 428-439
背景
抗菌薬耐性は健康に対する世界的な脅威であり、その一部は病院における急性内科患者に対する不適切な抗菌薬処方に起因している。
目的
世界の病院における抗菌薬処方(広域スペクトル抗菌薬使用を含む)決定に関する定性的研究のシステマティックレビューを実施すること。
方法
2007 年から 2017 年の間に発表された、成人入院患者における抗菌薬処方に関する定性的研究の系統的検索を行った。Health Belief Model を利用して、フレームワーク法による統合を行い、抗菌薬耐性に関連する脅威に対する認識、ならびに抗菌薬の適正使用支援に関連すると認識されている利益と阻害因子について評価を試みた。
結果
全般的に抗菌薬耐性のリスクが深刻であるとの認識が認められたが、その帰結が理論上のものであり長期的なものであることから、医師は個々の患者のリスクの受けやすさを疑う傾向があった。処方者は処方を最適化することで利益が得られると考えていた一方で、過剰処方と抗菌薬耐性との直接的な関係には疑問を持っており、抗菌薬耐性という複雑な問題と取り組む場合に、処方者の行動を変えることは無益だと考えられていることが多かった。個々の患者のリスクを重視することが、より控えめな抗菌薬処方を行う上での主要な阻害因子であった。医師は、広域スペクトル抗菌薬が効果的でリスクが低いと認識していた。広域スペクトル抗菌薬の処方は、認知要求度が低く、医師にとって患者の期待に応えることを容易にするものであった。低所得国における抗菌薬処方の決定は、微生物学的検査および感染制御のサービスの不確実性が高いという背景によって影響を受けていた。
結論
抗菌薬耐性に取り組む場合、個人における即時のリスクと、集団における長期のリスクとのバランスを考慮する必要がある。診断上の不確実性を低減し、リスクに対する認識を変える取り組みが、診療習慣を変えるうえで決定的に重要となろう。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
抗菌薬の適正使用は「頭で分かっていてもいざとなるとできない」ことも多く、これはまさに本研究で示されているように「広域抗菌薬を処方することが、短期的には目の前の患者にさも良いことをしているように思え、かつ耐性菌の出現は時間が経ってからのことになるのでその直接的な因果関係が目に見えにくい」ことがその一因である。本研究は何となくイメージされている AMR の背景をシステマティックレビューで浮き彫りにしたものである。このような研究を踏まえ「ではどうすれば良いか」という議論が進むことが期待される。
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