全ゲノムシークエンス法は、パントン・バレンタイン型ロイコシジン陽性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)(USA300)の院内アウトブレイクの長期化および空間的な伝播を明らかにする★★

2019.03.12

Whole genome sequencing reveals a prolonged and spatially spread nosocomial outbreak of Pantone-Valentine leucocidin-positive meticillin-resistant Staphylococcus aureus (USA300)


A. Kossow* , S. Kampmeier, F. Schaumburg, D. Knaac, M. Moellers, A. Mellmann
* University Hospital Muenster, Germany
Journal of Hospital Infection (2019) 101, 327-332
背景
全ゲノムシークエンス法は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)株の伝播および特性をよりよく調査するのに役立つ。
目的
パントン・バレンタイン型ロイコシジン陽性 MRSA ST8(USA300)の院内アウトブレイクの長期化および空間的な分布の検出と解明について記述した。
方法
アウトブレイクは、当院で多剤耐性菌のルーチンの調査として実施する全ゲノムシークエンス法に基づくタイピングと、綿密な疫学調査との組み合わせにより検出した。感染源を調査するため、手順の観察と環境サンプリングを実施した。アウトブレイクを封じ込めるため、医療従事者との定期的に直接個人との情報伝達は継続し、職員の教育を実施した。
結果
アウトブレイクは 2016 年 10 月から 2017 年 11 月の間に発生し、2 つの別の部門で入院患者および外来患者として治療を受けた 5 例の患者が含まれた。3 例は感染しており、2 例は保菌していた。さらに、医療従事者 3 名がアウトブレイク株を保菌していた。アウトブレイク株は病院環境では認められなかった。感染源が明らかになったのは情報メディアを使用しない情報伝達方法でのコミュニケーションを通してのみであった。医療従事者の除菌および感染管理策によりアウトブレイクは解決した。
結論
全ゲノムシークエンス法は、それがなければ未検出のままであったかもしれないアウトブレイクの解明に役立った。それでもなお、院内伝播を追跡するために疫学調査は必要である。感染管理における個人間(対面)のコミュニケーションの重要性はどんなに強調してもしすぎることはない。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
USA300 は市中感染型 MRSA(CA-MRSA)であり、パントン・バレンタイン・ロイコシジン(PVL)を産生し、パルスフィールド電気泳動(PFGE)の泳動パターンからそう呼ばれている。当初米国の皮膚軟部組織感染症の原因 MRSA として市中で拡がり、やがて全世界へと拡散していった。現在では、医療施設内においてもその原因菌として知られている。本論文はドイツの大学病院の婦人科と新生児室の 2 つの病棟に発生した MRSA アウトブレイクを、全ゲノムシーケンスという新技術を用いつつ、従来からの面談による疫学調査を併用することで、院内感染の全容が明らかとなった貴重な事例報告である。実施した感染対策は、手指衛生の指導強化、チェックリストによる消毒剤を使用した環境整備、保菌患者のムピロシンの鼻腔除菌、オクテニジンによる含嗽と洗髪・皮膚消毒を 5 日間実施している。その後除菌を確認するために除菌終了 3 日後に連続 3 日間培養検査を実施し、さらに長期除菌の確認のために、10 日後、1・3・6・12 か月後に保菌チェックを実施している。

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