結腸直腸手術における感染性合併症の低減を目的とした術前の機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の比較:ガイドライン更新の必要性
Preoperative mechanical and oral antibiotic bowel preparation to reduce infectious complications of colorectal surgery – the need for updated guidelines
C.L.F. Battersby* , N.J. Battersby, D.A.J. Slade, M. Soop, C.J. Walsh
* Wrexham Maelor Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2019) 101, 295-299
背景
機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の併用により、結腸直腸手術における感染性合併症が減少することを示すエビデンスが増加している。事例的エビデンスから、英国および欧州では両処置の併用が用いられるのはまれであることが示唆されている。
目的
大腸外科医におけるこれらの腸管前処置の現在の使用状況およびベネフィットに対する認識状況を確認すること、ならびに術前腸管前処置を取り巻く意思決定に及ぼす影響を明らかにすること。
方法
Association of Coloproctology of Great Britain and Irelandの全会員に対して電子調査表を電子メールで送付し、ツイッターにより促進活動を行った。
結果
計 495 名が調査に回答し、413 名(83.2%)が英国、39 名(7.9%)がその他の欧州諸国、43 名(8.7%)が非欧州諸国であった。回答者は 12 ~ 20% の症例に対して経口抗菌薬を使用していた。機械的腸管前処置、リン酸浣腸、および前処置非実施はそれぞれ、9%から 80%の範囲であった。機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の併用は、5.5%から 18.6%の範囲であった。
53%(495 名中 260 名)が、機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の併用により手術部位感染症が減少することに同意し、32%(495 名中 157 名)が、この併用により吻合部漏出のリスクが低下することに同意した。
κ統計量が 0.06 から 0.27 の範囲であったことから、外科医の文献に関する認識および日常診療における不一致がかなり大きいことが示される。
24%(495 名中 96 名)は、機械的腸管前処置はEnhanced recovery after surgery(ERAS)プロトコールとは適合しないと考えており、41%(495 名中 204 名)は機械的腸管前処置により正常な腸管機能の回復が遅延すると考えていた。
結論
英国および欧州では、機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置が感染性合併症の低減に有効であるというエビデンスがあるにもかかわらず、これらを使用している大腸外科医は極めて少ない。このような結果は、ERAS プロトコールならびに英国および欧州のガイドラインの影響によるものと考えられる。英国および欧州とは逆に、北米のガイドラインでは、機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の併用を ERAS プロトコールに組み込むことを推奨している。本研究は、英国および欧州のガイドラインが、将来的に機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の併用を ERAS プロトコールに組み込むことを示唆している。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
近年、機械的腸管前処置と経口抗菌薬の併用による腸管前処置が結腸直腸手術における感染性合併症の低減に寄与するというエビデンスが集積している。一方で本論文のように、ヨーロッパでは実際には腸管前処置の実施率が低いことも報告されている。本論文ではその要因として ERAS(ヨーロッパで考案された手術後の回復力強化プログラム)が腸管前処置に消極的なスタンスを取っていることを挙げている。わが国でも腸管前処置の実施率はまだ低いことが繰り返し報告されており、今後の方向性について様々な観点から検討が必要である。
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