侵襲性ムーコル症の推定例および確定例の医療負担:2003 年から 2016 年の間に 3 次病院で治療を受けた患者の多施設疾病費用分析★

2019.03.12

Healthcare burden of probable and proven invasive mucormycosis: a multi-centre cost-of-illness analysis of patients treated in tertiary care hospitals between 2003 and 2016


S.M. Heimann* , M.J.G.T. Vehreschild, O.A. Cornely, W.J. Heinz, B. Grüner, G. Silling, J. Kessel, D. Seidel, J.J. Vehreschild
* University Hospital of Cologne, Germany
Journal of Hospital Infection (2019) 101, 339-346
背景
侵襲性ムーコル症はまれな侵襲性真菌感染症の 1 つであるが、死亡率が高い。しかしながら侵襲性ムーコル症の臨床的および経済的な負担に関するデータは不足している。
目的
侵襲性ムーコル症患者の直接的な治療費および追加費用を評価すること。
方法
FungiScope から抽出した侵襲性ムーコル症症例に関し、後向きの疾病費用分析を行った。FungiScope は新興真菌感染症の世界的なレジストリであり、疫学調査プラットフォーム(www.ClinicalSurveys.net)よりアクセス可能である。侵襲性ムーコル症患者の結果は、ドイツ診断群(German Diagnosis Related Group)コーディングに基づき、同様の基礎疾患をもつ患者とマッチさせ、比較した。
結果
侵襲性ムーコル症の推定例および確定例の患者 46 例のうち、31 例(67%)は男性であり年齢中央値は 53 歳(年齢幅は 11 歳 ~ 88 歳)であった。42 例(92%)の患者は最も頻度の高いリスク因子として血液疾患を有していた。費用に関する因子を分析すると、侵襲性ムーコル症に対する抗真菌薬が主要なコスト・ドライバーとして特定され(22,816 ユーロ、95%信頼区間[CI]15,036 ユーロ ~ 32,346 ユーロ)、直接的な治療費全体の平均は 53,261 ユーロ(95%CI 39,660 ユーロ ~ 68,825 ユーロ)であった。マッチさせた患者と比較して、侵襲性ムーコル症患者は 26.5 日長く病院で治療を受け(標準偏差 31.8 日、P < 0.001)、結果として追加費用は平均で 32,991 ユーロ(95%CI 21,558 ユーロ ~ 46,613 ユーロ、P < 0.001)となった。化学療法の非実施、侵襲性ムーコル症に対する外科的処置の非実施、抗真菌薬の予防投与の非実施だけでなく、侵襲性ムーコル症の推定例であることも全体の費用の低下に関連していた。19 例(41.3%)の患者は入院中に死亡した。
結論
本研究により、侵襲性ムーコル症の医療負担は相当大きなものであることが明らかになった。なお治療としての抗真菌薬の選択は、全体の費用に影響を及ぼさなかった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
侵襲性ムーコル症では、抗真菌薬の大量投与を含む集学的な治療をすみやかに開始しなければならないが、それにもかかわらず予後は不良である。難治であるために医療費が高額になるのは予想できたが、本検討は多数の症例からデータを入手できた点も貴重である。なお本邦では現在、ムーコル症に対して有効である抗真菌薬は単剤ではリポソーマルアムホテリシン B のみであるが、本検討では本邦未発売のポサコナゾール posaconazole も含まれている。さらに海外では既に isavuconazole が発売されており、本剤が使用されるようになった後の、医療費用に関する検討の結果も注目される。

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Journal of Hospital Infection (2020) 106, 325-329

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