術前の無症候性細菌尿:人工関節感染症のリスク因子か?

2019.02.22

Pre-operative asymptomatic bacteriuria: a risk factor for prosthetic joint infection?


R. Weale* , F. El-Bakri, K. Saeed
* Basingstoke Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2019) 101, 210-213
背景
感染症は、人工関節置換術施行後のまれな合併症である。待機的手術における術前の無症候性細菌尿の影響、ならびに術後の人工関節感染症リスクについては、十分に理解されていない。
目的
股関節および膝関節に対する関節全置換術を受けた患者における無症候性細菌尿の有病率を評価すること、ならびに関節全置換術施行後 2 年以内に診断された人工関節感染症の有病率と、無症候性細菌尿が人工関節感染症発症の独立リスク因子であるかどうかを明らかにすること。
方法
膝関節単顆置換術/膝関節全置換術または股関節全置換術を受けた患者を対象に、5 年間にわたる後向きレビューを実施した。術前 1 年以内の尿サンプルを分析し、無症候性細菌尿の患者を同定した。主要アウトカムは、術後 1 年以内の人工関節感染症とした。
結果
患者計 5,542 例を組み入れた。これらのうち、4,368 例で術前の尿培養結果が記録されていた。無症候性細菌尿の有病率は、4,368 例中140例(3.2%)であった。人工関節感染症の全発生率は 5,542 例中 56 例(1.01%)であった。これらの人工関節感染症患者のうち、33 例で術前の尿培養結果が記録されていた。感染症発生率は、無症候性細菌尿群で 5%(140 例中 7 例)、非無症候性細菌尿群で 0.61%(4,228 例中 26 例)、ならびに尿サンプルが得られていなかった群で 1.96%(1,174 例中 23 例)であった(P < 0.001)。無症候性細菌尿から回収された分離株は、人工関節感染症患者 7 例中 1 例で回収された分離株と同じ微生物であった。
結論
無症候性細菌尿と人工関節感染症との関連は統計学的に有意であったが、尿分離株は人工関節と関係しておらず、このことからこの関連は因果関係とは考えられないことが示唆される。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
高齢化と疾患保有者の増加により、人工関節置換術数は増加している。人工関節感染症(PJI)は重大な術後合併症であり、QOL に大きく影響する。手術室の無菌層流、器具の厳格な滅菌術、精力的な術創管理により外因性因子は減少したが、患者自身の常在菌叢による内因性感染が残っている。英国のガイドラインでは、尿検査は術前のルーチン検査として推奨されているが、陽性だった場合の対応については規定されていない。本論文では無症候性細菌尿はの危険因子となりうるのか?という疑問に対する 1 つの答えがでている。PJI の原因菌は表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌などのグラム陽性球菌(GPC)であり、グラム陰性桿菌(GNR)が原因となることはまれである。一方、無症候性細菌尿は大腸菌などの GNR が大半である。

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