セフロキシム前房内予防投与の導入前後での白内障手術後の眼内炎における細菌学的特徴およびセフロキシム耐性:後向き単一施設研究
Bacteriology and cefuroxime resistance in endophthalmitis following cataract surgery before and after the introduction of prophylactic intracameral cefuroxime: a retrospective single-centre study
E. Friling*, P. Montan
*St Erik Eye Hospital, Sweden
Journal of Hospital Infection (2019) 101, 88-92
背景
St Erik Eye Hospital では白内障手術後の術後眼内炎予防を目的として、セフロキシム前房内投与が 1996 年に導入された。セフロキシム前房内投与の導入直後に、術後眼内炎の発生率が劇的に低下し、眼内炎の原因に変化が認められた。
目的
セフロキシム前房内投与の導入前後における眼内炎の細菌学的特徴およびセフロキシム耐性を分析すること。
方法
St Erik Eye Hospital において、20 年間にわたり実施された白内障手術後に培養で確認されたすべての眼内炎症例を対象に、後向き観察研究を実施した。
結果
セフロキシム前房内投与の導入前(期間 1)には白内障手術 34,390 件において眼内炎症例 62 例(0.18%)が発生したのに対し、導入後(期間 2)には手術 75,144 件において 33 例(0.044%)が発生し、2 期間の間で有意差が認められた(P < 0.001)。細菌の検出率は期間 2 において大幅に低下し、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(1/1,400 対 1/15,000、P < 0.001)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(1/2,000 対 1/30,000、P < 0.001)、腸球菌以外のレンサ球菌(1/2,500 対 1/25,000、P < 0.001)およびプロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)(1/16,000 対 0/75,000、P = 0.04)という結果であった。セフロキシム感受性株は、期間 2 では検出率が低下した(P < 0.001)。期間 2 において、腸球菌は有意ではなかったが主要な細菌種となり(P = 0.13)、他方でセフロキシム耐性株の検出率はほぼ有意に上昇した(P = 0.05)。
結論
セフロキシム前房内投与により、白内障手術後の眼内炎の発生率が低下し、病原菌にはセフロキシム感性菌からセフロキシム耐性菌への変化が認められた。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
白内障術後の感染には、主にコアグラーゼ陰性ブドウ球菌やPropionibacterium、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、次いでグラム陰性桿菌が関与する。第 2 世代セファロースポリンに属するセフロキシムの前房内投与について、欧州ではランダム化比較試験が行われ、投与の有無によって術後眼内炎の発生頻度には 5 倍の違いが認められた(Am J Health Syst Pharm 2013;70(3):195-283.)。しかしこの結果にはいくつかの点で疑義が呈されており、スペインからはセファゾリンの前房内投与の追加で発生率が大きく低下したとの報告が複数ある。ただし薬剤選択のみならず、その投与法、そして併用する他法が様々であることが、標準化を行っていくうえでこれまで障害になっていたことは否めない。本邦では高齢化に伴い手術件数は今後も増加の一途をたどるであろう。本手術に関わる周術期感染症予防の方策について進展を期待したい。
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