病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の入院時スクリーニングに対する障壁と対応策:混合研究法

2019.01.05

Barriers and enablers to meticillin-resistant Staphylococcus aureus admission screening in hospitals: a mixed-methods study


K. Currie*, C. King, K. McAloney-Kocaman, N.J. Roberts, J. MacDonald, A. Dickson, S. Cairns, N. Khanna, P. Flowers, J. Reilly, L. Price
*Glasgow Caledonian University, UK
Journal of Hospital Infection (2019) 101, 100-108
背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の伝播リスクを低下させるため、国際ガイドラインでは保菌リスクのある入院患者の特定を目的とする入院時スクリーニングを推奨している。しかし、スクリーニングの最適な遵守レベルが常に達成されているわけではないことが、ルーチンのモニタリングにより示された。遵守を強化するため、我々は職員のスクリーニング行動に影響を及ぼす因子に関して、もっとよく理解する必要がある。
目的
病院の MRSA スクリーニングの方針に対する職員の遵守に影響を及ぼす因子を特定すること。
方法
データ収集および分析の指針とするため、正規化プロセス理論と理論的ドメイン・フレームワークから構築した逐次二段階混合法デザインを用いた。初めに得られた定性的所見のデータに基づいて、看護職員の全国的横断調査(N = 450)の内容を決定し、実施した。多変量回帰分析により、どの障壁と対応策が職員の遵守に関して最もよく予測するかを明らかにした。
結果
MRSA スクリーニングの最適な遵守(90%超)予測において、3 つの因子(MRSA スクリーニングを入院時のルーチンとして組み込むこと、実施する場所・診療部門、実施場所・診療部門における MRSA スクリーニングの遵守に関するフィードバック)が有意であった。データセットの統合により、「正しい行動をしやすくする」組織体制は、病棟での行動様式と同じように遵守に影響を与えることが示された。MRSA スクリーニングの優先度の決定(相対的な優先順位の上げ下げ)においては、深く根付いた価値観および信条が重要な関わりを持っていた。
結果
我々の知る限り、本研究は MRSA スクリーニングに対する障壁と対応策に関して独自のエビデンスをもたらす初めての研究であり、社会学的理論と心理学的理論の両方を応用している。抗菌薬耐性は世界的な保健衛生上の懸念であるため、今回の知見は世界中のスクリーニングプログラムにおいて重要であるといえる。本稿で示した洞察に基づき、将来、指針や推奨、行動を変化させることができれば、スクリーニングの遵守向上に大きな影響がもたらされるであろう。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
スコットランドでは、外来受診時、あるいは直接病棟に入院する際に、すべての患者に MRSA 保菌の臨床的リスクアセスメントを推奨している。これには MRSA 保菌や感染症の既往、施設入所の有無、他院からの転院であるかどうか、創傷・潰瘍・デバイスの有無といった項目が含まれ、看護記録としても記載される。リスク評価を行った後、鼻腔や会陰のスクリーニング、収容病室の決定や除菌といった対応が行われる。非常に細かく設定されており、90%以上遵守することは患者・スタッフ双方において相当の負担になることは予想できる。今回の社会学的、心理学的アプローチは、他の感染対策の実施の際の人間の行動様式を解析する場合においても、有効であるかもしれない。

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*University of Birmingham, UK

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