イングランド北部の熱傷病棟における多剤耐性緑膿菌(MDRP)によるアウトブレイク:複雑な環境における感染予防・制御の難しさ★

2018.12.25

An outbreak of multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa in a burns service in the North of England: challenges of infection prevention and control in a complex setting


V. Decraene*, S. Ghebrehewet, E. Dardamissis, R. Huyton, K. Mortimer, D. Wilkinson, K. Shokrollahi, S. Singleton, B. Patel, J. Turton, P. Hoffman, R. Puleston
*National Infection Service, Public Health England, UK
Journal of Hospital Infection (2018) 100, e239-e245
背景
熱傷患者は院内感染を来たすリスクが高く、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は創傷感染症および全身感染症の原因として最も頻度の高いものの 1 つである。熱傷患者の緑膿菌感染症とそれによる死亡は非常に多い。
目的
熱傷専門病棟における多剤耐性緑膿菌(MDRP)によるアウトブレイクを記述すること、また広範な疫学的、微生物学的および環境調査の実施にもかかわらず感染伝播のリザーバーを同定することの難しさを示すこと。
方法
多職種チームによるアウトブレイク制圧のための調査。
結果
他国からの熱傷患者の病院間移送後、入院時の検査によりその患者が、MDRP を保菌していることが明らかになった。その後、2015 年 11 月から 2017 年 9 月にわたり、さらに 9 例の患者が MDRP に感染した。初発症例とその後の症例の発生の間に比較的長期間の間隔があったことから、感染のリザーバと拡散の機序を確実性をもって同定することができなかったが、熱傷病棟の環境および設備の汚染が寄与因子であった可能性がある。
結論
熱傷専門病棟における感染伝播の予防は非常に困難であり、緑膿菌のアウトブレイクにおけるリザーバーの同定と根絶は必ずしもできない場合がある。本研究は、接触頻度の高い無生物表面が緑膿菌の院内伝播において重要な役割を果たすという新たなエビデンスを提供することで、文献的にも貢献するものである。こうした表面は、次の患者の接触の前に効率的に汚染を除去してしまうか、単一の患者への使用に限るべきである。注意を高めることが極めて重要であり、感染予防・制御手順の厳格な遵守により、患者の感染症の獲得と拡散のリスクを低減することが可能になる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
MDRP に感染した熱傷患者の感染対策を進め、制御していくうえで、環境の関与の度合いを推測することは容易ではない。水治療設備、手洗い、排水口など緑膿菌が存在しやすく、かつ感染伝播のソースとなりうる候補が多数存在する。今回のような事例の報告を複数丁寧に読み解いていくこと、そして現実の事例での具体的な経路推測と予防策を考えていくことが、基本的とはいえ重要なアプローチではなかろうか。なお熱傷ではしばしばAcinetobacterも関与するが、これに対する予防策を考える参考にもなろう。

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