平時に流行がない病院環境において発生したバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)による大規模アウトブレイクを制御するための推奨事項★★

2018.12.25

Recommendations for the successful control of a large outbreak of vancomycin-resistant Enterococcus faecium in a non-endemic hospital setting


F.N.J. Frakking*, W.S. Bril, J.C. Sinnige, J.E. van’t Klooster, B.A.W. de Jong, E.J. van Hannen, M. Tersmette
*St Antonius Hospital, Nieuwegein and Utrecht, The Netherlands
Journal of Hospital Infection (2018) 100, e216-e225
背景
教育病院において約 2 年間にわたり、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium:VRE)の 3 つの流行クローンによる大規模アウトブレイクが発生した。
目的
このアウトブレイクの制御およびこの教育病院における VRE の根絶に成功した戦略を記述すること。
方法
患者 3 例で VRE が検出された後に感染制御介入を開始した。隔離予防策、洗浄および接触者追跡を行ったにもかかわらず継続的な伝播が認められた後に、病院全体でのサーベイランスを開始した。衛生に関する教育と規律を強化した。これらの介入を実施したにもかかわらず、アウトブレイクを制御するために追加の方策、例えば過酸化水素蒸気による病棟の消毒、および VRE に対応する隔離病棟の設置などを行うことが必要となった。最終的に、化学療法を受けている血液内科患者に対するシプロフロキサシン予防投与を中止した。
結果
22 か月の期間にわたり、VRE 保菌者 242 例が同定された。これらのうち、患者 128 例(53%)は病院全体のサーベイランスのみで検出された。3 つの流行クローン、すなわちST494-vanAN = 160)、ST78-vanAN = 23)および ST117-vanB>N = 32)が検出された。可能性のある接触者が合計で 5,614 例同定された。VRE 伝播は 23 病棟中 13 病棟で発生していた。患者 22 例(7 例は菌血症)の臨床検体から VRE が回収された。2014 年 1 月以降、これらの VRE クローンのさらなる伝播は認められなくなった。
結論
今回のアウトブレイクに対して国際ガイドラインに従った感染制御策は十分に
実施したが、これを制御するには不十分であった。その十分な実施が明らかになったのは、持続的な病院全体のスクリーニングを実施した後であった。病院全体で発生したこの VRE アウトブレイクの制御の実施は成功したが、多大な取り組みを必要とした。流行クローンの最終的な封じ込めおよび根絶が達成されたのは、過酸化水素蒸気による環境デコンタミネーション、厳格な隔離予防策、VRE 用の隔離病棟、および抗菌薬管理によってであった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
EU の中でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む耐性菌が非常に少ないオランダの聖アントニウス病院で発生した大規模な VRE アウトブレイクへの対策に関する論文である。このアウトブレイクを終息させた病院は以下のような、平時の感染対策に関する推奨をあげている。1) VRE アウトブレイクがない病院:少なくとも年 4 回、4 日以上入院している病院の全患者に対して便のスクリーニングを実施する。2) VRE 陽性患者を 1 例検出:接触予防策と電子カルテ上で VRE 陽性を表示、保菌者との接触患者は 4 ~ 5 回のスクリーニングを実施。3) アウトブレイクが疑われる:VRE のタイピングを実施と患者の分類(陽性、疑い、陰性)、さらにコホーティング、感染対策の改善強化、清掃手順の遵守について監査する。4) アウトブレイクが確定:スクリーニングのための培養検体増加に対して検査室と調整、情報共有技術のサポート、職員への通達、患者・関連病院・保健所等への通知と公表、対策状況のフィードバック、スクリーニング対象患者の選定、アウトブレイク対応チームの設置、VRE 陽性患者の病室の過酸化水素蒸気による消毒、患者病室と感染伝播が疑われる器材の清掃状況の評価、抗菌薬の使用制限、5) 感染対策実施にもかかわらず感染拡大:VRE 病棟の設置も考慮、6) アウトブレイク制御後:発生した病棟の定期的(毎月)保菌スクリーニングと海外から入院してきた患者の保菌調査、である。

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