インフルエンザシーズン中の成人における RS ウイルスの負荷:過小評価された病態★★

2018.12.25

Respiratory syncytial virus burden among adults during flu season: an underestimated pathology


M. Kestler*, P. Muñoz, M. Mateos, D. Adrados, E. Bouza
*Hospital General Universitario Gregorio Marañón, Spain
Journal of Hospital Infection (2018) 100, 463-468
背景
インフルエンザ様症候群を有する成人患者において、RS ウイルスの役割に関する情報は不足している。
目的
通常のインフルエンザシーズン中に、呼吸器症状を有する成人患者における RS ウイルスの臨床的特徴を評価すること。
方法
2015 年 12 月から 2016 年 2 月に、スペインの 3 次病院において前向き試験を実施した。欧州疾病予防管理センターの基準に従い、試験対象には、市中獲得または病院/医療関連インフルエンザ様疾患のどちらかを有する成人患者のみが含まれた。サンプルは迅速遺伝子検査法(Xpert® Flu/RSV)を用いて分析した。RS ウイルス陽性患者を、ランダムに RS ウイルス陰性の対照群およびインフルエンザ陽性対照群と比較した。
結果
本試験には、インフルエンザ様呼吸器感染症の患者 1,200 例が含まれた。サンプル全体のうち、114 例(9%)はインフルエンザ陽性であり、95 例(8%)は RS ウイルス陽性であった。RS ウイルス陽性患者とインフルエンザ陽性患者を比較すると、RS ウイルス陽性患者はより高年齢であり(57.7 歳対 48.9 歳、P = 0.03)、その疾患は医療関連である頻度が高かった(95 例中 26 例[27.3%]対 114 例中 5 例[1.7%]P < 0.001)。RS ウイルス陽性患者はまた、抗菌薬を処方されている頻度も有意に髙く(95 例中77 例[81.0%]対 114例中 70 例[61.4%]P < 0.001)、入院が必要となる頻度も高かった(95 例中 93 例[97.8%]対 114 例中69 例[60.5%]P < 0.001)。死亡率も RS ウイルス陽性患者において有意に髙かった(95 例中 14 例[14.7%]対 114 例中7 例[6.1%]P = 0.04)。
結論
RS ウイルスは、インフルエンザシーズン中の中等度から重度の呼吸器感染症の主要な原因の 1 つである。RS ウイルスの獲得は院内感染または医療関連感染であることが多く、インフルエンザウイルス感染症より有意に死亡率が高かった。確実に隔離策を実施し伝播を防ぐため、第一段階の診断法としての迅速遺伝子検査法の使用は必須である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
RS ウイルス感染症は、乳幼児における肺炎や細気管支炎の原因ウイルスとして広く知られており、慢性肺疾患や免疫不全の成人においても重症化することが知られている。一方、一般成人における知見は十分ではない。本論文では、RS ウイルス感染症の成人における重要性が過小評価されていることに言及している。RS ウイルスが高齢者や院内感染での発生が多く、さらに死亡率も上昇させるため、インフルエンザ様疾患における鑑別診断において RSV 感染症を診断することは、感染対策上適切な予防策をとるうえで重要であるが、現時点では日本ではイムノクロマト法による迅速検査も成人では診療報酬上は認められていない。すでに日本の医療関連施設でも RS ウイルスによるアウトブレイクが複数報告されている。インフルエンザ様疾患の原因微生物のひとつが RS ウイルスであり、近年は遺伝子増幅により迅速に十数種類の原因微生物を同定するキットが米国米国食品医薬局(FDA)でも認可され、呼吸器感染症の診断に利用されている。ウイルス性の場合には抗菌薬の使用を中止することで耐性菌対策として、抗菌薬適正使用推進の一翼を担っている。

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