レビュー:低濃度のベンザルコニウム塩化物曝露に対する微生物応答の適応★

2018.11.24

Adaptive microbial response to low-level benzalkonium chloride exposure


G. Kampf*
*University Medicine Greifswald, Germany
Journal of Hospital Infection (2018) 100, e1-e22
ベンザルコニウム塩化物は医療において広く用いられる殺生物薬の 1 つであり、主に表面消毒薬および消毒洗浄剤に使用される。本レビューの目的は、細菌が低濃度のベンザルコニウム塩化物の曝露に適応する潜在力を評価することであった。評価した 57 の細菌種の多くで、最小発育阻止濃度(MIC)の最大 4 倍の上昇が認められた。パントエア(Pantoea)属菌、エンテロバクター(Enterobacter)属菌、スタフィロコッカス・サプロフィティカス(Staphylococcus saprophyticus)および大腸菌(Escherichia coli)の菌株または分離株において、強い適応性の、主に安定的な MIC の変化が示された(それぞれ、500 倍まで、300 倍まで、200 倍まで、100 倍まで)。適応後の MIC の最大値は、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)で 3,000 mg/L、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)で 2,500 mg/L、エンテロバクター属菌で 1,500 mg/L、大腸菌および S. saprophyticus で 1,000 mg/L であった。選択された抗菌薬(アンピシリン、セフォタキシム、セフタジジムなど)および消毒薬(臭化ジデシルジメチルアンモニウム[didecyldimethylammonium bromide]、塩化ジデシルジメチルアンモニウム[didecyldimethylammonium chloride]、トリクロサン、クロルヘキシジンなど)に対する交差耐性が一部の分離株で認められた。バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)complex および大腸菌において、トランスポーターおよび排出ポンプ遺伝子の著しいアップレギュレーションが認められた。適応分離株は、ベンザルコニウム塩化物を主成分とする消毒薬の推奨濃度では死滅しない可能性が高い。患者ケアにおける、ならびに消費者製品や家庭製品などの他のすべての環境におけるベンザルコニウム塩化物の使用は、厳しく評価されるべきであり、健康への有益性または正当な公衆衛生への有益性が証明された適応に限定するべきである。少なくとも目的の用途において、有効性、忍容性、皮膚または素材への適合性が劣らない場合、選択圧がより低いまたは選択圧がない他の消毒薬を選ぶべきである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
ベンザルコニウム塩化物は、陽イオン界面活性作用をもち、かつ低レベル消毒薬でもあり、環境整備に幅広く使用されている。本論文は種々の細菌に対して低濃度曝露をさせることで、抵抗性(本文では適応)が生じ、死滅させるにはより高い濃度が必要となり、日常的な使用はこの状況が起こる可能性がある。殺菌性が低下した結果、消毒薬としての効果と有益性が低下する危険性があることをこのレビューでは強調している。結論的には低濃度での曝露は細菌の MIC を 500 倍まで上昇させ、特にグラム陰性菌においてその傾向が強いことが示された。さらに、他の消毒薬や抗菌薬にも交差耐性を示し、トランスポーターや排出ポンプの機能上昇も認められた。しかしながら、使用現場においては試験管内の消毒抵抗性と菌塊がつくるバイオフィルムによる抵抗性とが混在することもあり、さらなる検討が必要である。

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