腸内細菌科細菌感染症のリスク因子としてのプロトンポンプ阻害薬使用:症例対照研究★

2018.09.25

Proton pump inhibitor use as a risk factor for Enterobacteriaceal infection: a case-control study


R. Cunningham*, L. Jones, D.G. Enki, R. Tischhauser
Plymouth Hospitals NHS Trust, UK
Journal of Hospital Infection (2018) 100, 60-64
背景
胃酸分泌抑制薬は、摂取された病原体が胃を通過する際に生存させてしまうことで、胃腸炎のリスクを高める。同じ機序が、腸内細菌科細菌の伝播に影響を及ぼすかどうかは不明である。この疑問に対する答えを得るために症例対照研究を実施した。
目的
入院患者において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用が、腸内細菌科細菌による感染症のリスクを高めるかどうかを明らかにすること。
方法
南西イングランドの 1 教育病院において、後向き症例対照研究を実施した。症例は、2014 年 4 月から 2015 年 3 月までの間に基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌科細菌に感染した患者 126 例であった。病院入院時または入院前6か月以内の PPI、H2 受容体拮抗薬または制酸薬の使用について、いずれも人口統計学的特性をマッチさせた ESBL 産生腸内細菌科細菌以外に感染した対照 126 例、ならびに主診断をマッチさせた感染症のない対照 126 例と比較した。
結果
ESBL 症例 126 例中 66 例、非 ESBL 対照 126 例中 62 例、および非感染対照 126 例中 34 例が、病院入院時または入院前 6 か月以内に処方された PPI を服用していた。多変量ロジスティック回帰分析により、ESBL 症例における PPI 曝露のオッズ比は、非感染対照との比較で 3.37(95%信頼区間[CI]1.84 ~ 6.18)、非 ESBL 感染対照との比較で 1.15(95%CI 0.68 ~ 1.95)であった。H2 受容体拮抗薬および制酸薬には、感染症との有意な関連はなかった。
結論
過去 6 か月以内の PPI 曝露には、ESBL 産生細菌および非 ESBL 産生細菌の両方による感染症との有意な関連がある。不適切な PPI 使用を減らすことは、伝播を抑制する新たな方法と考えられ、これにより抗菌薬使用が減少し、抗菌薬耐性の制御に有用となる可能性がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
PPI の使用と C. difficile 感染症の関連に関しては多数の研究があるが、その背景には、PPIの使用による胃酸の pH の低下が上げられる。従って理論的には PPI の使用はその他の微生物の定着や感染の増加につながってもおかしくないわけである。本論文は実際に PPI 曝露と ESBL 産生細菌を含む細菌による感染症の増加を示している。結論に述べられているように、不適切な PPI 使用を減らすことが重要である。

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