局所ポリミキシンの気道投与によるアシネトバクター関連の人工呼吸器関連肺炎の予防:矛盾した肺炎発生率の結果とエビデンスベースのベンチマーキング
Paradoxical Acinetobacter-associated ventilator associated pneumonia incidence rates within prevention studies using respiratory tract applications of topical polymyxin: benchmarking the evidence base
J.C. Hurley*
*University of Melbourne, Australia
Journal of Hospital Infection (2018) 100, 105-113
背景
局所ポリミキシン投与を含むレジメンは、他の治療法よりも人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防に有効なようである。
目的
ポリミキシンについて同時期に実施された比較対照研究の中で、対照群、介入群それぞれのアシネトバクター関連 VAP の発生率に注目した。そしてその発生率をポリミキシン以外のさまざまな VAP 予防法に関する研究(非ポリミキシン研究)と比較し、アシネトバクター関連 VAP の発生率の基準を作り、評価すること(ベンチマーク作成)を目的とした。
方法
研究中に VAP 予防を実施していない観察研究 77 グループのデータを用い、アシネトバクター関連 VAP のベンチマークを導いた。加えて、非ポリミキシン研究 41 件のデータからさらなる評価基準を得た。一般化推定方程式法によるメタ回帰によりベンチマーキングを実施した。
結果
局所ポリミキシン研究 20 件において、アシネトバクター関連 VAP の平均発生率は、対照群で 4.6%(95%信頼区間[CI]3.0 ~ 6.9)、介入群で 3.7%(95%CI 2.0 ~ 5.3)であった。一方、アシネトバクター関連 VAP のベンチマークは 1.5%(95%CI 1.2 ~ 2.0)であった。アシネトバクター関連 VAP のメタ回帰モデルでは、外傷集中治療室への入院群(係数+0.55、95%CI +0.16 ~+0.94、P = 0.006)、ポリミキシン研究の対照群(係数+0.64、95%CI +0.21 ~+1.31、P = 0.023)は有意な正の相関を示したが、ポリミキシン研究の介入群(係数+0.24、95%CI -0.37 ~+0.84、P = 0.45)は有意ではなかった。
結論
局所ポリミキシン研究の対照群におけるアシネトバクター関連 VAP の平均発生率は、ベンチマークの 2 倍以上であるのに対して、非ポリミキシン研究の集団内での発生率と、ポリミキシン介入群での発生率はベンチマークにより近い値であり、矛盾していた。これらの発生率は、局所ポリミキシン投与に関する比較対照研究において明らかになったVAP予防効果に照らしても矛盾しており、再度評価しなければならない。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
本研究の背景として、検討対象となる箇所(例えば ICU)で処方された経口ポリミキシンが、患者の口腔内、腸管内の細菌叢を変化させるのみならず、ICU および ICU 患者全体のマイクロバイオームを変え、介入群のみならず対照群の結果に影響を及ぼすのではないかという懸念があった。既報を基にこの疑問に対するべく解析を行ったが、残念ながら何らかの可能性を示唆できるほどの具体的な情報を得るまでには至らなかった。しかしアシネトバクター関連 VAP の発生率が、様々な因子に左右されている ICU のマイクロバイオームによって影響されているのは有力な仮説と言え、評価基準の設定が今後も重要であるのはうなずける。
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