タンザニアの病院に手術目的で入院した患者において基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌の保菌率は高いが内因性手術部位感染症の発生率は低い
High carriage rate of extended-spectrum beta-lactamase-producing Enterobacteriaceae among patients admitted for surgery in Tanzanian hospitals with a low rate of endogenous surgical site infections
N. Moremi*, H. Claus, L. Rutta, M. Frosch, U. Vogel, S.E. Mshana
*University of Wuerzburg, Germany
Journal of Hospital Infection (2018) 100, 47-53
緒論
低所得国では、タンザニアを含め、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌科細菌による手術部位感染症(SSI)の高い発生率が報告されているが、術後 SSI の発症における腸内細菌科細菌保菌の役割は不明である。本研究では、病棟入院時および退院時の手術患者における腸内細菌科細菌の保菌率、ならびに腸内細菌科細菌の遺伝子型と SSI との関連を検討した。
方法
直腸および創/膿のスワブにおける腸内細菌科細菌の確認は、VITEK-2 を用いて行った。PCR およびシークエンシングにより、β-ラクタマーゼ遺伝子を検出した。multi-locus sequence typing(MLST)を用いて、腸内細菌科細菌分離株の遺伝子型を決定した。
結果
登録された患者 930 例において、腸内細菌科細菌の保菌率は退院時のほうが病棟入院時より有意に高かった(36.4%対23.7%、P < 0.001)。病棟入院時に検査で保菌陰性であった患者 272 例中、78 例(28.7%)が入院中に腸内細菌科細菌を獲得していた。過去 3 か月以内の入院歴があることは、腸内細菌科細菌獲得の独立予測因子であった(ハザード比 2、95%信頼区間[CI]1.04 ~ 3.98、P = 0.038)。術後の追跡調査が可能であった患者 536 例中、78 例(14.6%、95%CI 11.6 ~ 17.5)が SSI を発症した。検討対象とした SSI 57 件中、33 件(58%)が腸内グラム陰性細菌によるもので、そのうち 63.6%(33 件中 21 件)が腸内細菌科細菌によるものであった。創分離株では、大腸菌(Escherichia coli)シークエンス型(ST)131 パンデミッククローンおよび肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)ST391 が主に認められた。ESBL 産生分離株 38 株中、37 株(97.3%)でblaCTX-M-15 遺伝子が検出された。男性であることは、SSI の独立予測因子であった(オッズ比 2.92、95%CI 1.73 ~ 4.91、P < 0.001)。
結論
本研究の所見は、外科病棟における厳格な感染制御策、抗菌薬管理、および腸内細菌科細菌の伝播動態研究の実施が必要であることを示している。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
タンザニアにおける薬剤耐性腸内細菌科細菌の疫学と SSI に関する観察研究である。ただただ耐性菌と SSI の多さに驚くばかりである。ただこの結果から、環境によっては日本でも薬剤耐性腸内細菌科細菌の増加やそれによる SSI の増加やアウトブレイクが起こりうるということは知っておかなければならないであろう。
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