日本の大学病院 4 施設における初の多施設点有病率調査★★

2018.07.31

The first multi-centre point-prevalence survey in four Japanese university hospitals


H. Morioka*, M. Nagao, S. Yoshihara, H. Ohge, K. Kasahara, N. Shigemoto, T. Kajihara, M. Mori, M. Iguchi, Y. Tomita, S. Ichiyama, T. Yagi
*Nagoya University Hospital, Japan
Journal of Hospital Infection (2018) 99, 325-331
背景
日本政府は抗菌薬耐性に対する国の行動計画を採用しており、これは薬物耐性病原体および抗菌薬使用を減らすことを目的としている。点有病率調査(PPS)は、病院における疫学に関する情報を得るために有用な調査法であるが、これまで日本では、多施設を対象とした PPS が実施されていない。
目的
日本の複数の大学病院を対象に、病院における疫学、医療関連感染症、および抗菌薬使用について全般的な情報を検討すること。
方法
2016 年 7 月、日本の大学病院 4 施設において標準化されたプロトコールを用いて多施設 PPSを実施した。
結果
患者計 3,199 例を組み入れた。年齢および入院期間は、中央値でそれぞれ 64 歳および 10 日であった。計 246 例(7.7%、95%信頼区間[CI]6.8 ~ 8.7)が 256 件の活動性医療関連感染症を有しており、933 例(29.2%、95%CI 27.6 ~ 30.8)が 1,318 件の抗菌薬処方を受けていた。医療関連感染症で最も多かったのは肺炎および消化器系感染症(N = 42、16.4%)であり、原因微生物で最も多かったのは腸内細菌科細菌(N = 49、30.8%)であった。医療関連感染症に対して最も多く処方されていた抗菌薬は、カルバペネム(N = 52、17.8%)、抗 MRSA 抗菌薬、および抗緑膿菌活性を有するセフェム系薬であった。外科手術時の予防投与として、抗菌薬処方 278 件中 46 件(16.5%)が経口薬であった。各病院における医療関連感染症および抗菌薬使用の割合は、それぞれ 4.8% ~ 9.5%および 19.3% ~ 35.0%の範囲であった。
結論
本多施設 PPS では、日本の大学病院における詳細な医療関連感染症データおよび特徴の明確な抗菌薬使用が記録された。医療関連感染症を低減し、抗菌薬耐性に対する国の行動計画を達成するための実行可能な計画を策定するためには、さらなる調査が必要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
日本初の多施設の PPS である。データ収集は、ECDC(欧州疾病管理センター)のプロトコールを日本向けに修正したものを使用している。医療関連感染(HCAI)を発症した患者では、長期入院、血液疾患、造血幹細胞移植、血管留置カテーテル挿入、尿道留置カテーテル挿入、気管切開などが HCAI 非発症患者と有意に差があった。示された結果は、大学病院という特殊な医療環境からのものであり、日本における HCAI の実態を代表するものではないものの、日本での代表的な大学病院での HCAI の状況を知る上で重要である。一般病院での PPS 実施をすることで、真の日本の HCAI の状況を把握でき、その結果をふまえて薬剤耐性(AMR)対策を計画することができる。平成 30 年 4 月の診療報酬改定で「抗菌薬適正使用支援加算」が新たに追加された。多くの医療施設が抗菌薬適正使用支援プログラムを実施しているが、その内容についてはまだ手探りの状況である。今後、医療費削減と AMR 対策をより有効にするためには、全国規模の PPS の実施が必要であろう。

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