感染症の伝播:病院勤務の医療従事者と一般集団の勤労成人の接触に関する調査★★

2018.04.29

Infectious disease transmission: survey of contacts between hospital-based healthcare workers and
working adults from the general population


Lili Jiang*, Isabel Hui Leng Ng, Yan’an Hou, Dunli Li, Linda Wei Lin Tan, Hanley Jian An Ho, Mark I-Cheng Chen
* National University of Singapore, Singapore
Journal of Hospital Infection (2018) 98, 404-411
背景
医療従事者は、感染症の伝播に関して医療現場と地域社会の間の意図しない接点である可能性がある。
目的
医療従事者の勤務日の接触を調査し、一般集団の勤労成人と比較すること。
方法
シンガポールの政府系 3 次病院 3 施設および地域社会の勤労成人において、24 時間の自己申告日誌を用いて接触に関する前向き調査を実施した。参加者は医療従事者および地域の勤労成人とした。
結果
全体で、医療従事者 211 名および勤労成人 1,028 人が、それぞれ計 4,066 件および計 9,206 件の接触を報告した。医療従事者は地域の勤労成人よりも、業務関連の接触の報告がより多く(中央値 13 対 4)、また家族でも業務関連でもない接触の報告もより多く(1 対 0)、しかし家族の接触の報告はより少なかった(2 対 3)。医療従事者は地域の勤労成人と比較して、身体的接触を伴う業務関連の接触の報告がより多く、また、とりわけ短期間(15 分以下)の新たな接触の報告がより多かった。様々な医療従事者の職種の中で、業務関連の接触の報告総数に関しては医師が最も多かったのに対し、病棟担当の看護師は最も少なかった。病棟および外来担当の看護師の接触の約半数は身体的接触を伴うものであった。外来担当の看護師、医師および様々な医療従事者が報告した業務関連の接触は、病棟担当の看護師の報告より短時間であったが、新たな接触が効率的に生じ報告数はかなり多かった。単変量解析において施設の影響は有意であったが、医療従事者の職種による交絡を調整した後は、影響は大きく減少し有意ではなくなった。
結論
医療従事者の接触は、地域の勤労成人の接触とは大きく異なる。医療従事者はその職業の特性から、このように接触により伝染する感染症および呼吸器感染症に罹患し伝播するリスクがより高い可能性がある。医療従事者の職種間の接触総数はかなり類似していた一方で、職種ごとの接触の特徴は実質的に異なった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
過去に SARS や MERS、そしてエボラウイルス感染症で、医療従事者がアウトブレイクに大きく関与していたことが明らかになっているが、一般人よりも医療従事者がより感染を拡げやすいことを裏付ける基礎的なデータは極めて少ない。医療従事者は、一般勤労成人より多くの人と接触する機会が多いことは容易に想像できるが、それを定量化したものは極めて少ない。医療従事者は予測どおり一般人よりも、より多くの人と接触し、また初対面の人ともより頻回に接触し、結果的に感染の機会が圧倒的に増える。特に病棟の看護師は会話だけではなく、物理的(身体的)な接触が多く、かつその頻度も高く、接触感染の媒介者となる危険性と同時に医療従事者自身が感染症患者から飛沫や接触の感染経路により感染する危険性も当然高くなる、さらには感染した医療従事者が社会へ感染症を拡散させる媒介者にもなることが示唆された。

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