電気温水ビデ付きトイレの公衆衛生および医療関連リスク★★
Public health and healthcare-associated risk of electric, warm-water bidet toilets
A. Kanayama Katsuse*, H. Takahashi, S. Yoshizawa, Kazuhiro Tateda, Y. Nakanishi, A. Kaneko, I. Kobayashi
*Toho University Faculty of Nursing, Japan
Journal of Hospital Infection (2017) 97, 296-300
背景
近年、日本において病院内のビデ洗浄付きトイレの導入に対し、長期入院患者からの薬剤耐性菌の交差汚染の可能性について懸念する声が上がっている。
目的
日本国内の大学附属病院においてビデ洗浄付きトイレから回収した薬剤耐性菌の分離状況を検討すること。
方法
大学病院の電気ビデ洗浄付きトイレ 292 カ所すべてから試料を採取し、汚染状況を調査した。試料採取には培養用スワブを使用し、ウォータージェットノズルおよび便座から採取した。
結果
試料を採取した便座 292 個のうち 254 個(86.9%)の温水ノズルで、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、Streptococcus 属菌、Enterococcus 属菌、腸内細菌または腸内細菌以外のグラム陰性菌の複数の微生物汚染が確認された。黄色ブドウ球菌は、ウォータージェットノズル 1 個と便座 9 個から検出されたが、そのうちウォータージェットノズル 1個と便座 1 個はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌であった。さらに同じトイレのウォータージェットノズルと便座の両方が、CTX-M-9 型基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生大腸菌(Escherichia coli)によって汚染されていた。培養されたグラム陰性菌のうち最も分離頻度が高かったのはステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)であり、39 カ所のビデ洗浄付きトイレから回収された。
結論
ビデ洗浄付きトイレの温水ノズルは、多種多様な細菌に汚染されており、交差感染の媒体となる可能性がある。病院環境においてビデ洗浄付きトイレを共用する場合、患者の臨床的背景を考慮しなければならない。これらの結果に基づき、ビデ洗浄付きトイレはリスクマネジメントプログラムの対象とし、モニタリングおよび消毒の措置を講じるべきである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
本邦でのウォシュレット付きトイレ(温水洗浄便座)の普及率は世界で最も高いと思われる。医療機関においても多数設置されているが、医療機器としての扱いは受けておらず、複雑な構造と、機種による構造差もあいまって、清掃に課題があることはかねてから認識されていた。使用者の腸内細菌叢による汚染と伝播可能性も予想されていたが、具体的な情報が得られた点で、本研究の価値は高いと思われる。構造・機種ごとの差異や、清掃・消毒による菌数減少効果、効果的な清掃法について、今後様々な追試が行われることに期待したい。
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