脊髄損傷患者における抗菌薬の使用と抗菌薬関連下痢症の有病率:国際多施設研究
Use of antibiotics and the prevalence of antibiotic-associated diarrhoea in patients with spinal cord injuries: an international, multi-centre study
S. Wong*, P. Santullo, S.P. Hirani, N. Kumar, J.R. Chowdhury, A. García-Forcada, M. Recio, F. Paz, I. Zobina, S. Kolli, C. Kiekens, N. Draulans, E. Roels, J. Martens-Bijlsma, J. O’Driscoll, A. Jamous, M. Saif
*Stoke Mandeville Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2017) 97, 146-152
背景
脊髄損傷患者における抗菌薬の使用、および抗菌薬関連下痢症の範囲については、ほとんど分かっていない。
目的
脊髄損傷患者において、抗菌薬の使用を記録し、抗菌薬関連下痢症およびクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)の有病率を明らかにし、抗菌薬の使用および抗菌薬関連下痢症の発生率に季節変動があるかを評価すること。
方法
2014 年 10 月から 2015 年 6 月までの間に、欧州の脊髄損傷センター 6 施設において、後向き研究を行った。抗菌薬関連下痢症は、24時間に水様便が 2 回以上あることと定義した(Bristol Stool Scale のタイプ 5、6、または 7)。
結果
計 1,267例の成人脊髄損傷患者(年齢の中央値 54 歳、女性 30.7%、四肢麻痺 52.7%、完全型脊髄損傷 59%)を本研究に含めた。抗菌薬を使用中であった患者 215 例(17%)における抗菌薬の適応症の上位 3 つは、尿路感染症(UTI)、感染性褥瘡、およびその他の皮膚感染症であった。この 215 例中 32 例の患者(14.9%)が抗菌薬関連下痢症を発症し、研究対象集団全体で 2例の患者(1,267例中 2例、0.16%)が CDI を発症した。抗菌薬関連下痢症は、夏季のほうが、春季、秋季または冬季よりも多かった(それぞれ、30.3%対 3.8%、7.4%、および 16.9%、P < 0.01)。抗菌薬関連下痢症は、65 歳以上であること、四肢麻痺、体格指数(BMI)が高いこと、低アルブミン血症、多剤併用、複数の抗菌薬の使用、およびハイリスクの抗菌薬の使用と関連した。夏季、冬季、および男性であることが、抗菌薬関連下痢症発症の独立予測因子として同定された。
結論
この調査から、脊髄損傷患者で抗菌薬関連下痢症が多いこと、および UTI が感染の原因として最も多いことが分かった。夏季、冬季、および男性であることは、抗菌薬関連下痢症の特異的な予測因子である。抗菌薬関連下痢症および UTI は、場合によっては予防可能である。したがって、抗菌薬の過剰使用の回避と、院内感染制御策を改善するストラテジーの構築に、より一層注力すべきである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
脊髄損傷患者は患者背景として抗菌薬が投与されやすく、そのため CDI を発症するリスクが高いことが想像される。脊髄損傷患者や神経内科や脳神経外科、長期療養施設など感染症診療や感染対策が充実していない病棟や施設に存在することが多いため、CDI や抗菌薬関連下痢症に関する啓発を進めることが重要である。
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