メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)が恒常的に分離されている新生児集中治療室において、積極的サーベイランス培養および除菌プログラムを実施した場合のMRSA の獲得リスク★★
Meticillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) acquisition risk in an endemic neonatal intensive care unit with an active surveillance culture and decolonization programme
R. Pierce*, J. Lessler, V.O. Popoola, A.M. Milstone
*Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Baltimore, MD, USA
Journal of Hospital Infection (2017) 95, 91-97
背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は、新生児集中治療室(NICU)における医療関連感染の主要な原因菌である。MRSA の伝播を引き起こす感染源は、除菌により排除される可能性がある。
目的
除菌を実施した新生児からの保菌圧および未実施の新生児からの保菌圧について、MRSA 獲得との関連性を調べ、蔓延する MRSA の制御を目的とした本ストラテジーの有用性について情報提供すること。
方法
MRSA の感染制御のために積極的サーベイランス培養と除菌を行ったレベル 4 の NICU において、8 年間の後向きなコホート研究を実施した。1 週間の保菌圧への曝露環境を、先立つ 7 日間に治療(除菌)を受けた MRSA 保菌児および未治療の(除菌を受けていない)保菌児と同室した患児日数と定義した。ポアソン回帰を用いて保菌圧への曝露環境に関連する MRSA の新規定着リスクを見積もった。この状況下における、NICU 全体での既治療または未治療の患児に起因する MRSA の発生数の割合を評価するため、集団寄与割合を算出した。
結果
未治療の MRSA 保菌児への曝露が 1 人・日増えると、MRSAの獲得リスクは 6%上昇した(相対リスク[RR]1.06、95%信頼区間[CI]1.01 ~ 1.11)。既治療の隔離された MRSA 保菌児への曝露は獲得リスクに影響を及ぼさなかった(RR 1.01、95%CI 0.98 ~ 1.04)。この MRSA 制御プログラムでは、MRSA 獲得の 22%(95%CI 4.0 ~ 37)が未治療の MRSA 保菌児への曝露に起因するかもしれない。
結論
未治療の MRSA 保菌児は、伝播の重要な感染源であった。除菌を受け接触隔離された患児は、検知可能な伝播をもたらしうる存在ではなかった。このことは、除菌により患者から患者への伝播が減少する可能性があるという仮説を支持している。患者以外の感染源がユニット内での MRSA 獲得に寄与する可能性もあり、さらなる研究が必要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
レベル 4 の NICU とは、新生児の人工呼吸管理あるいは心臓外科などの外科的手術など極めて高度な治療を実施できる NICU であり、MRSA 保菌はその後の MRSA 感染症発症の危険性が危惧され、保菌者の感染対策は極めて重要である。本研究では、積極的なMRSA監視培養と除菌により、他の患児への保菌圧を軽減できるとするものである。培養部位は鼻腔前庭のみで、除菌はムピロシン(2回/日 × 5日間)による鼻腔除菌に加え、2%CHGによるクロスによる清拭を、在胎36週あるいは生後 4 週を越えれば 48 時間あけて 2 回実施、また生後 2か月経過しておれば清拭を 5 日間実施するという除菌プログラムであり、これにより他の患児への保菌リスクを低くできる可能性がある。日本のムピロシンの添付文書では、1 日 3 回 × 3日間が一般的であり、さらに「小児等に対する安全性は確立していない。なお、使用成績調査において、15 歳未満 379 例(出生後 4 週未満 156例 を含む)に使用された結果、副作用発現症例はなかった。」と記載されている。
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