オーストラリアにおけるクロストリジウム・ディフシル(Clostridium difficile)感染症の疫学:ビクトリア州における、2010 年から 2014 年までの疾患の時間的傾向および重症度を検討するための強化サーベイランス★★
Epidemiology of Clostridium difficile infections in Australia: enhanced surveillance to evaluate time trends and severity of illness in Victoria, 2010-2014
L.J. Worth*, T. Spelman, A.L. Bull, J.A. Brett, M.J. Richards
Victorian Healthcare Associated Infection Surveillance System Coordinating Centre, Australia
Journal of Hospital Infection (2016) 93, 280-285
背景
クロストリジウム・ディフシル(Clostridium difficile)の流行株が国際的に多大な医療負担となっており、オーストラリアにおける C. difficile 感染症(CDI)事象の縦断的評価が必要である。
目的
オーストラリアの医療機関における CDI 事象に関して、疾患の時間的傾向および重症度を検討すること。
方法
2010 年 10 月 1 日から 2014 年 12 月 31 日にビクトリア州の公立病院に入院した患者のすべての CDI 事象を Victorian Healthcare Associated Infection Surveillance System に報告させた。CDI は、下痢の検体から毒素産生 C. difficile 菌が分離されることと定義し、市中感染型(CA-CDI)または医療関連(HA-CDI)と分類した。重症疾患は、集中治療室に入院、手術が必要、および/または感染症による死亡と定義した。時間的傾向は、混合効果の Poisson 回帰モデルを用いて検討し、季節性の Walter and Edward 検定を適用して潜在的な周期的パターンを評価した。
結果
全体で、89 の医療機関から CDI 事象 6,736 件が報告された。このうち、4,826 件(71.6%)が HA-CDI で、10,000 病床利用日あたり 2.49 件の率に相当した。HA-CDI の発生率は、第 5 四半期のサーベイランスで最も高く(10,000病床利用日あたり 3.6 件)、その後減少した。重症疾患は、1.66%の事象で報告され、その割合は CA-CDI で HA-CDI と比べて有意に高かった(2.21 対 1.45%、P = 0.03)。HA-CDI の発生率の最高および最低は、それぞれ 3 月および 10 月に認められた。
結論
ビクトリア州の HA-CDI発生率が米国/欧州のサーベイランス報告と比べて低いことを報告した。2012 年から 2014 年に HA-CDI の発生率の減少とともに、季節性が認められた。重症感染症が CA-CDI でより高頻度にみられたことは、市中における今後のサーベイランス強化の根拠となるものである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
本論文は南半球にあるオーストラリア・ビクトリア州での CDI のサーベイランスである。すでにオーストラリアで強毒株が検出されているが、本サーベイランスでの強毒株(027 株のような)の状況は遺伝子解析されていないため、詳細は不明である。病院での(HA-CDI)発生率は2.49 / のべ10,000病床で、過去の米国(1.6 ~ 2.4 / のべ1,000入院患者)やドイツ(3.2 ~ 9.2 / 10,000入院患者)などの報告よりも少ない。オーストラリアにおいて欧米のように劇的な強毒株の拡大が起こらなかった理由として、強毒株の分離後の速やかな対応(CDI の管理ガイドライン、抗菌薬適正使用、手指衛生など)が精力的に実施された結果としていえる。市中感染の CDI が約 28%にみられたことを含め、今後の日本での CDI への対応を考えてゆく上で、有意義な情報である。
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