アイルランドの急性期病院におけるバンコマイシン耐性腸球菌保菌率★
Vancomycin-resistant enterococci carriage in an acute Irish hospital
E. Whelton*, C. Lynch, B. O’Reilly, G.D. Corcoran, B. Cryan, S.M. Keane, R.D. Sleator, B. Lucey
*Cork University Hospital, Ireland
Journal of Hospital Infection (2016) 93, 175-180
背景
European Antimicrobial Resistance Surveillance System Network の 2014 年の報告書によると、アイルランドは、欧州では菌血症例中のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)率が高いことが確認されている。
目的
Cork University 病院の 2014 年の患者コホートを対象に、入院患者と地域の患者からルーチン検査のために微生物学検査室に提出された便検体を用いた横断研究を実施し、VRE の消化管定着率を検討すること。
方法
選択培養、抗菌薬感受性試験、MALDI-TOF-MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法)を用いた菌種同定により、便を検査し、VRE の定着について検討した。耐性決定因子、型、Insertion Sequence 16(Clonal Complex 17[CC17]の指標)に関する分子的手法によりすべての VRE 分離株を評価した。
結果
検討した 350 検体中、67 検体(19.1%)は VRE 陽性であった(95%信頼区間[CI]15.0~ 23.2)。本研究において検討した Cork University 病院の患者(194例)の VRE 定着率は 31.4%であった(95% CI 24.7 ~ 38.1)。これに対し、一般開業医の患者検体(29 例)のは定着率が 0%、他院の検体は 22.2%(27 例)が VRE 陽性であった。すべての分離株はエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)(VREfm)であり、CC17 を含むことが示唆されたが、分離株間にかなりの不均一性がみられた。
結論
この高い定着率は、アイルランドで現在 VRE 菌血症罹患率が高いことを説明し、観察された高い VRE 率を制御するために、すべての病院がスクリーニングを実施し、感染制御を強化することの有用性を強調する根拠となる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
腸球菌はヒトや動物の消化管内の常在菌であり、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は容易に腸管に定着する。また、環境に長期間生存するため、器材や病院環境あるいは手指を介して感染が拡大する。VRE による菌血症は、臓器移植や血液悪性腫瘍の患者などの免疫低下患者において発生しやすく、VRE そのものの病原性は低いものの治療に難渋する場合もある。VRE 腸管保菌状況が広範囲に拡大した場合には、感染制御は極めて困難となるため、拡がる前の予防策が必要である。VRE 感染症は、感染症法 5 類感染症であり、厚労省通知(平成 26 年 12 月 17日)には保菌を含め一例でも検出された場合には厳重な感染予防策を実施するよう記載されている。
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