イングランドの集中治療室におけるステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)による偽性アウトブレイク★
Pseudo-outbreaks of Stenotrophomonas maltophilia on an intensive care unit in England
T.D. Waite*, A. Georgiou, M. Abrishami, C.R. Beck
*Public Health England, UK
Journal of Hospital Infection (2016) 92, 392-396
背景
2014 年 6 月、地域の総合病院の成人集中治療室において、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)の同一株による集団発生が報告された。このクラスターを調査し、制御策の特定に資する情報を得るために、アウトブレイク制御チームが編成された。
目的
この環境において S. maltophilia が分離されることの潜在的リスク因子を明らかにすること。
方法
2013 年 10 月から 2014 年 10 月にかけて集中治療室患者のコホート研究を実施し、患者の気管支肺胞洗浄液を採取して検査を行った。症例は、気管支肺胞洗浄液から S. maltophilia が培養された患者とした。S. maltophilia 分離と患者特性の関連について、リスク比(RR)と 95%信頼区間(95%CI)を算出し、単変量ロジスティック回帰を用いて評価した。カイ二乗検定または Fisher の直接確率検定を用いた。さらに分離株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行い、型別の判定を行った。
結果
患者 18 例が症例定義を満たした。2 例では、S. maltophilia に対する抗菌薬療法を必要とするような臨床症状が認められた。全症例が気管支鏡検査を受けていた。PFGE タイピングにより、2 種類の菌株(BRISPOSM-4とBRISPOSM-3)によるクラスターが明らかになった。気管支鏡 A に曝露された患者では BRISPOSM-4 分離(RR 13.56、95%CI 1.82 ~ 100、P < 0.001)、および気管支鏡 B に曝露された患者では BRISPOSM-3 分離(RR 16.89、95%CI 2.14 ~ 133、P < 0.001)に有意に高いリスクが認められた。BRISPOSM-4 は、気管支鏡 A の汚染除去後にフラッシュした水からも分離された。
結論
再利用可能な気管支鏡が汚染され、気管支肺胞洗浄液に菌が混入したことによる2 つの偽性アウトブレイクを経験した。気管支鏡使用患者の下気道へ菌が定着した可能性は除外できない。単回使用の気管支鏡の導入は、効果的な制御策であった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
環境中、特に水系に存在する S. maltophilia が医療関連感染に関わる可能性は常に高い。日常的に多用されている気管支鏡が本菌によって汚染されるリスクも高いといえる。本研究ではそれを疫学的に明らかにし、かつ単回使用の気管支鏡を導入するに至った。気管支鏡の衛生保持・滅菌・消毒の点でも今後に活かすべきところが多いと考える。
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