SARS および MERS コロナウイルスならびにインフルエンザウイルスの医療環境における伝播:乾燥表面汚染の役割の可能性★★

2016.03.01

Transmission of SARS and MERS coronaviruses and influenza virus in healthcare settings: the possible role of dry surface contamination


J.A. Otter*, C. Donskey, S. Yezli, S. Douthwaite, S.D. Goldenberg, D.J. Weber
*Imperial College Healthcare NHS Trust, UK
Journal of Hospital Infection (2016) 92, 235-250
パンデミックを引き起こす可能性のあるウイルスである、H1N1、H5N1 および H5N7 インフルエンザウイルス、ならびに重症急性呼吸器症候群(SARS)/中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス(CoV)などは、最近の新興ウイルスである。SARS-CoV、MERS-CoV およびインフルエンザウイルスは、長期にわたり表面上で生存可能であり、時に数か月生存する。これらのウイルスの表面上での生存に影響する因子は、ウイルス株の変異、ウイルス価、表面の種類、懸濁する溶媒、沈着の仕方、温度と相対湿度、およびウイルスの生存を確認するための方法などである。環境サンプリングにより、現場では SARS-CoV およびインフルエンザウイルスによる汚染の同定が行われてきたが、分子的検出の頻回の使用は、必ずしも生きたウイルスの存在を示さない可能性がある。間接接触による伝播(無生物表面の汚染を含む)については、他の伝播経路、主要なものとして直接接触による伝播(表面の汚染とは関係なく)、飛沫および空気経路と比較した重要性は不明である。しかし、インフルエンザウイルスと SARS-CoV は環境内に排出され、環境表面から患者や医療従事者の手指に移行することが考えられる。新たなデータから、MERS-CoV にも同じ性質が認められることが示唆されている。手指が環境により一度汚染されると、鼻、眼または口の粘膜への自己播種が始まる可能性がある。数理モデルと動物モデル、および介入研究から、一部のシナリオでは接触伝播が最も重要な経路であることが示唆されている。感染予防および制御の意義として、自己汚染を最小限にするため、また粘膜表面と気道への播種に対して防御するための手指衛生と個人防護具の必要性、ならびに医療環境における表面の清掃および消毒などが挙げられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
インフルエンザウイルス、SARS コロナウイルス、MERS コロナウイルスの環境汚染に関する総説である。2015 年に韓国で発生した MERS アウトブレイクでも、環境の汚染が議論されていた。環境汚染のリスクは明らかではないものの、環境から手、手から粘膜への伝播を考えると、特に病原性の高いウイルス感染症においては、環境でのウイルスの存在は感染源となることが示唆された。

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