クロルヘキシジンの有効性の評価を目的とした複数菌によるバイオフィルムモデルの確立
Establishment of a multi-species biofilm model to evaluate chlorhexidine efficacy
R.E. Touzel*, J.M. Sutton, M.E. Wand
*Public Health England, National Infection Service, UK
Journal of Hospital Infection (2016) 92, 154-160
背景
糖尿病足潰瘍のような慢性感染症は、患者の合併症発症率および死亡率に関して大きな影響を及ぼす。慢性感染症の創傷の特徴は複数菌による複雑な集合体であり、この集合体には根絶が困難な多剤耐性病原菌が含まれる場合がある。
目的
複数菌によるバイオフィルムの根絶におけるクロルヘキシジンおよびクロルヘキシジン含有製剤の有効性を検証するため、複数菌種からなるバイオフィルムモデルを確立すること。
方法
米国疾病対策センターのバイオリアクター1)を用いて、同数の肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、およびエンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)の複数菌からなるバイオフィルムを作製した。このモデルを用いて、あらかじめ形成されたバイオフィルムの制御におけるクロルヘキシジンの有効性を検証した。
結果
各種濃度のグルコン酸クロルヘキシジンをバイオリアクターに添加した。複数菌種からなるバイオフィルム内で肺炎桿菌および緑膿菌は 4%の濃度まで生存したが、黄色ブドウ球菌は 1%の濃度で検出レベルを下回るまで減少した。バイオリアクターから取り出したバイオフィルムを含む試片をクロルヘキシジン含浸医療用ワイプで拭き取った結果、いずれの菌種においても、24 時間後の log10 値の減少値は 3 超から 4 未満であった。寒天平板に形成した創傷床への試片の埋め込みでは、グルコン酸クロルヘキシジン含有ドレッシングは、黄色ブドウ球菌を完全に除去した(log10 値の減少値 8 超)が、他の対象菌種については効果はわずかであった(log10 値の減少値 3 未満)。
結論
本研究で、クロルヘキシジンの有効性は、複数菌種からなるバイオフィルムに作用する必要がある場合は限定的である可能性があることが示された。これにより、これらの病原菌の感染および拡散を制御するクロルヘキシジンの能力が損なわれる場合がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
クロルヘキシジンの有効性を、複数菌の集合体により形成されたバイオフィルムという、より生体内の複雑で現実的な状況に近似させた環境で検討した研究である。バイオフィルムの除去には拭き取りやぬぐい取りなど物理的な方法が有効であり、消毒薬の消毒効果を期待するには、まずは物理的に汚染を除去することの重要性を示唆する結果でもあろう。
監訳者注
1) バイオフィルム形成を測定する装置
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