社会的剥奪が急性期病院の医療関連感染症有病率に及ぼす影響の特定:関連づけをしたデータセットの多変量解析

2015.12.31

Determining the effect of social deprivation on the prevalence of healthcare-associated infections in acute hospitals: a multivariate analysis of a linked data set


S.J. Packer*, S. Cairns, C. Robertson, J.S. Reilly, L.J. Willocks
*Health Protection Scotland, UK
Journal of Hospital Infection (2015) 91, 351-357
背景
医療関連感染症(HCAI)により患者の罹患率、死亡率、および入院期間が増加し、安全が脅かされる。HCAI のリスク因子を特定するための研究では、より広範な公衆衛生上の決定因子までを対象とすることはまれである。しかし、社会的剥奪(social deprivation)の増加と健康状態の不良な転帰との間には関連が認められ、十分な評価が行われている。したがって、HCAI と社会的剥奪との関連の有無を明らかにすることは重要である。
目的
スコットランドの急性期病院 1 施設の全入院患者を対象として、2011 年 9 月から 10 月の特定の 1 日における社会的剥奪と HCAI 有病率との関連を明らかにすること。
方法
本研究では、2011 年に実施された欧州における HCAI 点有病率・抗菌薬処方調査からのスコットランドのデータと、全国的データセットである Scottish Morbidity Record 01(Scottish Index of Multiple Deprivation[SIMD]を含む)との関連づけを行った。多変量ロジスティック回帰を用いて、SIMD の五分位値に基づく HCAI 有病率の予測モデルを作成した。
結果
全入院患者を対象とすると、SIMD の五分位値と HCAI 有病率との間に全般的な関連は認められなかった。外科手術を受けた患者では、SIMD の五分位値ごとの HCAI 有病率には有意差が認められ、社会的剥奪が大きいほど有病率が高かった(P = 0.0071)。HCAI 有病率との関連がみられた変数は、診療科が集中治療部門、精神科、および内科であること、最小侵襲手術、ならびに全カテゴリーの入院期間であった。
結論
本研究では、手術を受けた患者集団の SIMD の五分位値ごとの HCAI 有病率には有意差が認められた。著者らの知る限り、本研究は HCAI と SIMD との全般的な関連を評価した初めてのものである。今回の知見により、健康状態のアウトカムの決定因子としての社会的剥奪の広範かつ包括的な特性が明らかにされた。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
これまで HCAI のリスク因子については、患者の医療上の状態や医療機関内の状況に焦点が当てられていたのがほとんどであった。しかしながら本検討では、より広い公衆衛生学的な意味で、社会的剥奪が HCAI と関連があるのではないかという仮説が検証された。結果として手術を受けた患者で有意差が認められ、関連が示されたが、この仮説は本質的な部分でユニークといえよう。今後の追試や、異なった角度からの検討が期待されるところである。

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