病室の前利用者からの病原菌獲得リスク:システマティックレビューおよびメタアナリシス★★
Risk of organism acquisition from prior room occupants: a systematic review and meta-analysis
B.G. Mitchell*, S.J. Dancer, M. Anderson, E. Dehn
*Avondale College of Higher Education, Australia
Journal of Hospital Infection (2015) 91, 211-217
以前の病室利用に伴う患者の病原菌獲得リスクを明らかにするために、システマティックレビューおよびメタアナリシスを実施した。また分析を拡大し、グラム陽性菌とグラム陰性菌の獲得リスクの相違についても調査を行った。Medline/PubMed、Cochrane、CINHAL を用いた検索により、1984 年から 2014 年の 2,577 件の文献を特定した。本レビューは international prospective register of systematic reviews(PROSPERO※)に従って評価を行った。以下の組み入れ基準に合致した文献は 7 件であった。(a)ピアレビュー論文、(b)病原菌の保菌率の報告、(c)英文で執筆された論文、および(d)Newcastle-Ottawa Scale(NOS)※※に基づくバイアスリスクが極小またはなし。1 件は既報の研究の続報であったため除外した。研究間で (NOS)※※ の相違はほとんど認められず、5 件が星 8 つ、2 件が星 7 つの評価を得た。全体で、評価対象とした病原菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[meticillin-resistant Staphylococcus aureus]、バンコマイシン耐性腸球菌、クロストリジウム・ディフィシル[Clostridium difficile]、アシネトバクター[Acinetobacter]属菌、基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ産生大腸菌群、シュードモナス[Pseudomonas]属菌)獲得の統合オッズ比は 2.14(95%信頼区間[CI]1.65 ~ 2.77)であった。グラム陽性菌とグラム陰性菌のデータの比較では、獲得の統合オッズ比はグラム陰性菌 2.65(95%CI 2.02 ~ 3.47)、グラム陽性菌 1.89(95%CI 1.62 ~ 2.21)であった。現行の実践では獲得リスクが十分に低下していないため、これらの結果は感染制御専門家、環境清掃サービス業者、および患者にとって重要な意味がある。予防不可能な獲得源が存在する可能性はあるものの、このリスクを最小限にするためにはあらゆる関係職員が協力して実践を改善する必要がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
何らかの細菌が検出された患者が退院した病室に、次の患者が入室した場合に、前入室患者と同じ細菌に感染するリスクがどの程度あるのかを過去の複数文献について解析した論文であるが、結論は「前入室患者が病原菌に感染しているとその後に入院した患者の感染するリスクは約 2 倍になる」である。そして、ESBL 産生大腸菌を含め細菌の種類にかかわらず感染リスクが高いことも重要であり、患者退室後の最終清掃について見直しが必要であることを提示している。これらの菌は環境で長期間生存し、感染リスクをもっており、これまでの清掃方法に限界があることも示唆している。欧米では、耐性菌あるいはディフィシル菌の制御に関して、通常の消毒剤による清拭清掃ではアウトブレイクを抑えきれず、紫外線やオゾン等の新たな器具による病室内殺菌あるいは酸化チタンなどの環境表面処理の有効性が議論されていることも、この結果から頷ける。
監訳者注:
※PROSPERO:医療や介護のケアの分野において、前向きに登録されたシステマティックレビューの国際的データベス。システマティックレビューを包括的に登録することで、新たなレビューでのプロトコールの重複を避け、報告されたレビューのプロトコールの比較が可能になることで、研究過程の透明性を確保している。英国ヨーク大学にあり、複数の政府機関から資金援助を受けている(http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/)。
※※Newcastle-Ottawa Scale(NOS)※※:コクラン共同作業により推奨された、観察研究におけるリスクバイアス評価ツール。妥当性と信頼性は確立されており、最高点は星 9 つである。
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