黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症に関連する特定の系統に特徴的な遺伝子変異の同定
Identification of genetic variation exclusive to specific lineages associated with Staphylococcus aureus bacteraemia
D. Patel*, M.J. Ellington, R. Hope, R. Reynolds, C. Arnold, M. Desai
*Public Health England, UK
Journal of Hospital Infection (2015) 91, 136-145
背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)菌血症の症例は 2003 年以降減少しており、ほとんどは E15(MLST clonal complex CC22)および E16(CC30)の 2 種類の流行株に起因している。一方、メチシリン感性黄色ブドウ球菌(meticillin-susceptible S. aureus;MSSA)菌血症の発生率は概ね不変であり、これらの分離株に関する知識は依然として不十分である。
目的
流行している系統間で不均一性がみられる遺伝子領域の分布およびヌクレオチド配列を、2009 年に British Society for Antimicrobial Chemotherapy(BSAC)の Bacteraemia Resistance Surveillance Programme が収集した黄色ブドウ球菌の臨床分離株を用いて調査すること。
方法
MRSA 103 株および MSSA 99 株の合計 202 株の黄色ブドウ球菌分離株を蛍光増幅断片長多型(FAFLP)を用いて分析し、系統に特異的な配列モチーフおよび系統間の可動性遺伝因子の分布の相違に基づいて、ヌクレオチド変異を検出した。
結果
MRSA E15 および E16 株は、2009 年の分離株のそれぞれ 79%および 6%を占めていた。CC22 と CC30 を含む 6 種類の系統が、英国・アイルランドにおける MRSA 菌血症と関連していた。MSSA 分離株は多様性が大きく、19 種類の系統が検出された。FAFLP により、プロテアーゼやヘム生合成に関与する因子をコードする遺伝子座に、その系統に特異的な配列の変異が検出された。これらの因子はいずれも、メジャーな系統の流行に影響を及ぼすと考えられるものである。ある種の可動性遺伝因子がコードしている蛋白質、またはコバラミン生合成に関与する蛋白質が、CC8、CC22、CC30 に特異的に認められた。
結論
全体として、コアゲノム領域および可動性遺伝因子の遺伝的多様性によって、抗菌薬耐性が異なったり、流行と関連する病原因子や適合性因子の産生性が違ってくる可能性がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
本研究は、「ある流行株はどうして流行を起こしているのか」という問いに関して、微生物側からの解明を試みた研究といえる。今回の検討によって得られた結果は興味深いが、その背景に、菌のプロファイルは非常にバリエーションに富んでおり、複合的な因子が関連していることを垣間見ることができる。より精密な解析によって、各遺伝子の作用と相関に関する知見が集積され、総合的な理解が進むことに期待したい。
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