聴診器と医療関連感染症:身を潜めた敵か、無関係な第三者か?
The stethoscope and healthcare-associated infection: a snake in the grass or innocent bystander?
N. O’Flaherty*, L. Fenelon
*St Vincent’s University Hospital, Ireland
Journal of Hospital Infection (2015) 91, 1-7
聴診器は、医療関連感染症(HCAI)の原因となり得る感染性病原体を伝播する可能性が懸念される。本総説の目的は、HCAI 発症における聴診器の役割に関する入手可能な文献を評価することである。複数のデータベースを用いて、関連する研究・報告の文献検索を実施した。聴診器は、細菌の温床となっていることが一様に示されていた。28 件の研究の聴診器の平均汚染率は 85%(範囲 47% ~ 100%)であった。分離細菌の大半は非病原性であった。分離頻度が最も高い微生物はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であった。汚染レベルの定量的評価を行っている 6 件の研究すべてにおいて、平均汚染レベルは French Normalization の清浄度基準(膜 1 枚あたり 20 コロニー形成単位未満に相当)を超過していた。聴診器から培養された病原性を有すると考えられる微生物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci)、およびクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)などであった。患者の皮膚から聴診器へ、また聴診器から皮膚へ細菌が移行することのエビデンスが得られた。しかし、これらの研究デザインは、聴診器汚染とそれに続く HCAI との相関を検出するためのものではなかった。洗浄の実践を評価した調査では、聴診器の消毒に関する医師および医学生の責任が不十分であることが判明した。聴診器の最適な消毒法は明確にされていなかったが、アルコール製消毒薬は細菌汚染の減少に有効であった。結論として、汚染した聴診器と HCAI との関係は依然として確証されていないが、皮膚と聴診器との間で細菌が移行することは示された。入手可能な情報からは、聴診器の汚染除去を患者と患者の使用の合間に行うべきであることが示唆された。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
医療環境での病原体伝播には、医療従事者の手指ならびに共有する可能性のある聴診器などの医療器具がある。聴診器の問題は、かねてより指摘され数々の論文が出ているが、実際の臨床の現場では聴診器単独で病原体の接触伝播が起こるわけではないので、研究デザインの設定が重要となる。
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