介護施設のインフルエンザアウトブレイクに対するオセルタミビル:実臨床での課題と有益性★

2015.08.31

Oseltamivir in influenza outbreaks in care homes: challenges and benefits of use in the real world


S. Millership*, A. Cummins
*Anglia and Essex Public Health England Centre, UK
Journal of Hospital Infection (2015) 90, 299-303
背景
インフルエンザなどの呼吸器ウイルス感染症は、高齢者の回避可能な入院の重大な原因である。最近の総説ではオセルタミビルの伝播予防効果に疑問が呈されているが、住居型介護施設での著者らのアウトブレイク制御戦略において、オセルタミビルはその中核を担っている。
目的
住居型介護施設における呼吸器ウイルス感染症のアウトブレイク制御について、特にオセルタミビルによる抗ウイルス薬予防投与のロジスティクスおよび効果に重点を置いて評価すること。
方法
北半球における 2010 年から 2013 年の 3 回のインフルエンザシーズンを対象として、地域のデータベースに保存された記録の後向き調査を実施し、記述的解析を行った。
結果
研究期間中に合計 590 の介護施設から 75 件の呼吸器系アウトブレイクが報告され、このうち 35 件のアウトブレイクでは病因がインフルエンザであることが確認された。インフルエンザによる全発症率は 29.7%、入院率は 5.3%、および死亡率は3.3%であった。さらに、10 件のアウトブレイクはパラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルス、もしくは RS ウイルスの単独、またはそれらのウイルスとライノウイルスとの重複が原因であり、6 件のアウトブレイクはライノウイルス単独が原因であった。残りの 24 件のアウトブレイクでは病因が特定されなかった。
結論
早期の公衆衛生的介入によって、住居型介護施設での呼吸器ウイルス感染症アウトブレイクの迅速な終息がもたらされると考えられる。オセルタミビルの使用には高い費用を要するが、データからは、本研究の条件下では予防法としての有益性がある程度得られることが示唆された。住居型介護施設でのアウトブレイクを制御し、入院を回避するためには、臨床的および費用対効果に最も優れた介入を明らかにするための研究が必要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
この研究は、保健所に報告されたデータを用いたものである。高齢者施設でのアウトブレイクは、1 週間以内に 2 例以上の呼吸器感染症症状を呈した、と定義された。75 件の冬季の呼吸器感染症アウトブレイクデータの解析はインフルエンザだけではないこと、入所者やスタッフの発症率などを明らかにしており、大変参考になる。

監訳者注:
ロジスティクス(logistics):本稿では薬剤の迅速・適切な入手・輸送・配布のほか、検体の採取・輸送のことも指しているようである。

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