医療従事者による感染経路別の感染制御・予防策の意思決定はガイダンスサマリーカードにより改善する★

2015.07.31

Healthcare workers’ decision-making about transmission-based infection control precautions is improved by a guidance summary card


C.D. Russell*, I. Young, V. Leung, K. Morris
*Victoria Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2015) 90, 235-239
背景
感染経路別予防策は、病原体伝播の遮断を目的として策定された感染制御策である。その成功は、感染症の可能性がある患者の早期発見と、その後の適切な感染経路別予防策の実施にかかっている。医療従事者に感染経路別予防策の実施を促すための介入について、評価を行った文献は見当たらない。
目的
感染経路別予防策ガイダンスサマリーカードが、感染経路別予防策の適切な実施に関する医療従事者の意思決定に及ぼす影響を評価すること。
方法
感染経路別予防策実施に関する医療従事者の意思決定能力を評価するために、前向きの監査を実施した。施設の感染経路別予防策ガイドラインを要約・記載した、感染症や特定の微生物を対象とした感染経路別予防策を決定および実施するためのガイダンスカードを、初回の監査期間後に職員に配布した。監査サイクルの終了後に、この介入の影響を評価した。
結果
適切な感染経路別予防策に関するベースライン時の知識は乏しかった。感染経路別予防策サマリーカードの提供と、カードを携帯している職員が下記の種々の臨床的状況で必要となる感染経路別予防策はどれであるかを正確に判定する能力との間に有意な関連がみられた。クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染(被験者合計 107 名、オッズ比[OR]27.0、95%信頼区間[CI]8.37 ~ 86.8、P < 0.0001)、ノロウイルスによる下痢および嘔吐(同 107 名、OR 94.3、95%CI 25.0 ~ 356、P < 0.0001)、インフルエンザ様疾患(同 107 名、OR 85.2、95%CI 4.94 ~ 1,470、P < 0.0001)、および外科用マスクと FFP3 マスクとの相違(同 107 名、OR 412、95%CI 23.4 ~ 7,246、P < 0.0001)。
結論
感染経路別予防策に関する医療従事者の知識は不十分である。本研究は、安価な感染経路別予防策サマリーカードは(i)診療の場での感染経路別予防策ガイダンスの利用、および(ii)感染経路別予防策の適切な実施に関する意思決定の改善にあたって、いかに効果的な手法であるかを示すものである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
現場の医療従事者は、いかに感染対策の知識が欠如し、感染経路別対策の実施の意思決定ができていないかを認識したうえで、改善策として「予防策サマリーカード」を携行させ、現場での意思決定をより確実にすばやく実施できるようになることを示した論文である。クロストリジウム・ディフィシル感染症やノロウイルス感染症の場合にはどう対応(選択する防御具と患者配置)するか、また空気感染対策と飛沫感染対策の違い、冬季に発熱、全身倦怠と呼吸期症状を呈する患者への対応(選択する防御具、患者配置と患者搬送時の患者へのマスク着用)について質問し、カードの手渡し前後で 2 度回答させ、比較調査している。たとえば、「ノロウイルス胃腸炎で下痢嘔吐のある患者に対してどのような防御具を装着し、個室収容をすべきかどうか?」という質問に対して、きちんと回答できなかった人は、カードを渡す前後で約90%から約10%に減少したという結果である。この程度の予防策については、日本の医療従事者のほうがはるかに理解度と意思決定の程度は高いのではないかと思う。

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